文明開化の頃、道具屋の娘 花岡イカルは父母を亡くし、東京は上野の遠縁にひきとられます。親戚のトヨに連れられ博物館を訪ねたとき、ひょんなことから道具を見立てる“目利きの才”があることを館長に認められ、古い蔵の整理を手伝うことになりました。
怪異研究者 織田賢司のもとで働くうちに、“黒手匣”(くろてばこ)という収蔵品が、消えていることが分かります。“黒手匣”は、長崎の収集家から寄贈された、開けると祟りがあるといわれる品でした。
その後イカルは、立ち寄った古道具屋で手がかりをつかみ、織田と共に、事件の謎を解き明かそうと力を尽くします。誰が何の目的で匣を盗んだのか? 隠れキリシタンの秘密とは? 真相に迫るうちに、ページをめくる手が止まらなくなります。
作者は、絵本「まゆとおに」や、「妖怪一家九十九さん」「シノダ!」シリーズなど、日本古来の精霊を主人公にした作品で大人気ですが、この歴史物語で新境地を開いたと感じました。
明治初期の東京を舞台に、実在した人物(織田、館長の田中、トヨ)や、東京国立博物館などを登場させ、当時の雰囲気が伝わってくるのも魅力です。続編が待たれます。
田村 梓(新潟市の小学校司書。子どもたちと一緒に本や昔話を楽しんで、30年になりました。)