大人の本棚・こどもの本棚

かわせみのマルタン

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この作品は、「わたし」の視点で語られる愛情深いかわせみ夫婦の物語。フランスの教育者・ポール・フォシェが編んだ「ペール・カストール・アルバム」の1冊です。

“年とった、二本のモミの木のあいだから、泉が、わきだしています。ごぼ、ごぼ!泉は、ようきにうたいます。それから、まがったり、くねったりしながら、丘をくだっていきます。”

泉は川となり森の中を流れ、人里離れた谷へと進んでいきます。
「わたし」は、様々な生命が息づく世界一美しいこの場所を王国と感じていました。ところが、その王国に空よりも青く、絹よりも艶やかな小鳥がやってきて、「ここは、おれの領土だ!」と宣言し、住みついてしまいます。そう、それがかわせみのマルタンです。

春はめぐり、マルタンはマルチーヌを妻にむかえ、水辺の土手に穴をほり、その巣でいっしょに暮らしはじめます。二羽はいつでも、どこへでも、いっしょです。やがて、マルチーヌはたまごを生み、温めます。マルタンがやさしく面倒をみてくれます。マルチーヌは「ティク、ティク」(わたしは、しあわせよ)と応えます。子育ても終わり、秋がやってくるとかわせみの子どもたちは親から離れていきます。

6年目の秋、「セイクス、セイクス!」。悲しい叫び声はマルタンです。病気になってしまったマルタンは二度と美しい羽根を広げることはありませんでした。「わたし」は、小川のそばに小さな墓を掘り、ヒースの花の上におき、土をかぶせました。それから数日後、あとを追うようにマルチーヌは命を終わらせます。「わたし」は、マルタンと同じ墓に埋めてやりました。

次の春、川辺は受け継がれた新しい命で満ちあふれ、水は歌いながら流れていきます。
あっ!そこへ「フルルル、フルルル!」。若い二羽のかわせみがやってきたのです。

リダ・フォシェの詩的な文章は、自然の営みを細やかに豊かに語り、ロジャンコフスキーの石版画は、自然を正確に描きながら大らかで、読者に文学的な感動を与えてくれます。
大人にもぜひ出会ってほしい美しい絵本です。

推薦者:野上 千恵子(新潟県立図書館子ども図書室有志の会代表。元図書館司書。新潟県立図書館、県立高校図書館を経て、新潟市の小・中学校図書館に勤務。子どもたちとお話や本の世界の愉しさを分かち合っています。)

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