
著者ラフィク・シャミは、シリア出身で、ドイツに亡命し、化学で博士号を取得し、製薬会社に勤務しますが、途中でその仕事をやめ、ドイツ語で児童文学を書く作家になりました。
なぜ、ドイツ語で書くのか……それは、アラブ語で、亡命作家の本は出版されないからです。
本書は、そのような児童文学者のエッセイであり、かなりの部分が自伝的内容です。すなわち、本書には、祖国の政治体制への批判や現住国で出会った人々への皮肉、その中でどのように著者が生きてきたかが書かれています。
一方で、著者がいかに優秀で広い知識と強い胆力を持っているか、なぜ作品が多くの国で翻訳されるほど成功をおさめたのかも、分かるような気がします。
本書がエッセイの形をとっているのは幸いなことです。平易で断片的な文章がちょうどよく、人間と言語と文化、アイデンティティーと故郷など、実に様々なことを考えさせてくれるからです。唯一無二のエッセイだと思いました。

推薦者:足立幸子(新潟大学教育学部教授。新潟アニマシオン研究会顧問。専門は国語科教育学・読書指導論。学校や家で子どもが読書をするための方法や環境について研究している。)
