本書は西ドイツのヴァイツゼッカー大統領が、ドイツ敗戦40周年を記念して1985年5月8日に連邦議会で行った演説に、訳者が注や解説文を付したものです。
本書を取り上げる理由は二つあります。
一つ目は、その内容です。この演説でヴァイツゼッカー大統領は、戦前・戦後に何が行われたかを振り返りつつ、様々な状況にあった人々に同情と励ましとねぎらいの言葉をかけます。また、歴史の真実を冷静かつ公平に見つめるように呼びかけます。演説が行われてから、さらに40年が経とうとしています。ロシアのウクライナ侵攻に終わりが見えない現在、この演説を読み直してみる価値があると思います。
二つ目は、ブックレットという形式です。少し細かい話をすると、岩波書店はこの演説を安価な形で届けようと、まず1986年にこの演説を同じ永井清彦氏の訳で、次に関連して2005年に別の著者・宮田光雄氏による『《荒れ野の40年》以後』を、さらに2009年に「新版」である本書を岩波ブックレットとして出版しているのです。演説自体はインターネットでも読むことができますが、このような経緯に出版に携わっている人たちの情熱と努力と歴史の重みを感じます。
推薦者:足立幸子(新潟大学教育学部教授。新潟アニマシオン研究会顧問。専門は国語科教育学・読書指導論。学校や家で子どもが読書をするための方法や環境について研究している。)