エーミールは、美容師の母親と二人暮らし。貧しいけれど母親の愛情を一身に受け、それに答えようと素直に懸命に生きる少年です。
ところがある日、母親から預かったお金をベルリンのおばあさんのところへ届ける汽車の中で、悪い男に盗まれてしまいます。一文無しになってしまったエーミールのとった行動は…!?
エーミールをはじめ、登場する子ども達が個性豊かでとても魅力的です。子どもらしい子どもと、その子どもが心から信頼できる大人たちの存在。読後の何とも言えない幸福感と清々しさを是非味わってほしいです!
ところで、ケストナーの作品は前書きがとっても長い(本書は13ページ!)です。恥ずかしながら、かつて私は前書きで挫折してしまっていましたが、前書きを読み終え本文に入るや、ぐいぐい物語の中へ引っ張り込まれ、あっという間に読んでしまうのでした。
もともと詩人であったケストナーは、ナチス政権のドイツにおいて反政府的な作家としてヒトラーに目をつけられていたにもかかわらず〝目撃者″であり続けようと亡命せずドイツに留まり続け、何度となく奇跡的に難を逃れながらもペンを持ち続けました。彼の著書はナチスによってことごとく処分されましたが、この『エーミールと探偵たち』だけは当時子どもに大人気でナチスも手が出せなかったということです。
推薦者:田野辺淳子(絵本の家「ゆきぼうし」副代表。「ゆきぼうし」のある守門村(現魚沼市)で子育てをするため、2001年に新潟市西区から家族で移住。以来、「ゆきぼうし」スタッフの活動を続ける。現在は、高校で書道講師として勤務。)