児童文学の名作『エーミールと探偵たち』『飛ぶ教室』『動物会議』などの著者 ケストナーの伝記です。戦争の時代を生きた作家の生涯を、今こそ読んでほしいと思いご紹介します。
1899年ドイツ生まれのケストナーは、詩人、小説家、脚本家、ジャーナリストとして活躍、社会や人間を冷静に観察して多くの作品を執筆し、風刺家、モラリストとしても人気を博しました。やがてヒトラーの独裁政治が始まるとナチスの敵とみなされ、焚書や発禁処分にあいますが、亡命せずにドイツにとどまり「時代の目撃者」「やがては証言者」となりました。
12年に及ぶ圧政下で、書くことができない苦悩を抱え、ケストナーはどのように生き抜いたのか、著作から数々の言葉を引用しその人生をたどります。母との強い絆や恋愛についても記され、一人の人間のありのままの姿が見えてきます。
読み進むうちに、20世紀の戦争の惨禍が、現在のロシア軍によるウクライナ侵攻と驚くほど似ていると感じました。歴史から学ぼうとせず、同じ過ちを繰り返す人間たち。自分はどのように考え行動したらよいのか、ケストナーと著者コルドンの言葉に耳を傾けなければと思います。
田村 梓(新潟市の小学校司書。子どもたちと一緒に本や昔話を楽しんで、30年になりました。)