第2次大戦下、ホロコーストを生きのびた少年の実話です。
ユダヤ人のスルリックは、ワルシャワのゲットー(ナチスがユダヤ人を隔離し住まわせた区域)で暮らしていました。8歳でゲットーを脱出、ゲシュタポの追跡を逃れ、一人で村を転々とします。
ポーランド人のふりをするため、名前をユレクと変え、助けてもらった婦人にキリスト教徒のふるまいを教わります。利発で愛らしいユレクは、農家を訪ね仕事と食べ物をもらって懸命に働きますが、ユダヤ人であると知られる度に、逃げ出さなければなりませんでした。ある日事故で大けがをしたのに、医師に治療を拒否され、右腕を切断。やがてゲシュタポにつかまると…。
作者は、イスラエルで教育者になったユレクの話を聞いて、この物語を書いたそうです。本書を読むと私たちも、ナチスの残虐な行為やユダヤ人の非業の苦しみの一部を“追体験”できると思います。ユレクは死と隣り合わせの状況で、なぜ生き抜くことができたのか。自分だったらどう行動したのか、考えさせられます。
過酷な現実の中で、人の温かさも感じられるドキュメントです。どうぞ読んでみてください。
田村 梓(新潟市立小学校の学校司書。子どもたちと一緒に本や昔話を楽しんで、29年目になりました。公共図書館などでも、子どもと本をつなぐ活動をしています。)