本を盗んだ者は、罰として物語の世界に閉じ込められる――しかも町もまるごと物語の舞台に変えられてしまう。それが本の呪い「ブック・カース」。
そんな物騒な呪いに巻き込まれた主人公・御倉深冬は、物語の世界から脱出すべく、そして様変わりした町を元の姿に戻すため、嫌々ながらも奮闘します。本が盗まれるたび、町は異なる物語に染められます。ごく普通の高校生かつ本が嫌いな深冬は、不思議な少女・真白の手を借りながら様々な試練をくぐり抜けていきます。最初は気だるげで消極的だった深冬が、腹をくくってブック・カースに挑んでいく心の変化や、色とりどりの世界を駆け抜ける疾走感、真珠の雨が降ったり謎の獣が現れたりする不思議な世界観など、多様な魅力を発見できる作品です。
物語の展開だけでなく、著者の表現力も魅力の一つです。豆腐屋のラッパが「ぱあぷう」と鳴る深冬の日常から、暗くヒリヒリしたハードボイルドの世界、煙たい炭鉱のような洞窟や、泣きたいほど孤独で寂しい世界まで、毎回異なる世界を描き、鮮やかに転換していく文章に圧倒されます。物語の没入感を楽しむだけでなく、一歩引いた視点から、文章や言葉そのものの魅力を味わいながら読むのも楽しいかもしれませんね。
読書が好きな人はもちろん、長めの小説にトライしてみたい人にもおすすめの一冊です。
推薦者:佐藤 江理子(新潟県立図書館司書。ユースコーナー担当)
新潟県立図書館のホームページにBSNキッズプロジェクトの「大人の本棚・こどもの本棚」で紹介された本のリストが紹介されています。こちらもどうぞご利用ください。