松岡享子さんが42年にわたって、東京子ども図書館の機関誌に連載した162編のエッセイを収めた本です。
松岡さんは、アジア・欧米の児童書や昔話の翻訳者、絵本や物語の作家、東京子ども図書館の創設者、またすばらしい語り手で、子どもと本を結ぶために力を尽くした人でした。
本書を読むと、著者の人間としての多彩な魅力に触れることができます。大きな仕事を成し遂げた方ですが、目的のために邁進するというより、熟慮し機知にとんだ発想で、しなやかにたのしみながら進んでいくという印象です。多くの人の力を結集させ、願いを結実化していく力は類まれなもの。持ち前のユーモアと朗らかな笑い声が響いてくるエピソードもあります。
心に残った三つのお話です。
アメリカの図書館員カスタニア氏から学んだ「読書の鎖」をつないでいく話……図書館で働く私の指針にもなっています。
「パディントン」の続きを「はやくはやく やくしてください。」と手紙を送った小学2年のたくじ君と文通を重ね、19年後に彼の結婚式に出席し、できたてホヤホヤの7巻を贈った話……田中琢治君は8巻以降の共訳者になりました!
東日本大震災のことと、同年11月に陸前高田市でトレーラーハウスの子ども図書館「ちいさいおうち」を開館した話……温かい部屋で、本を楽しんでいる子どもたちの笑顔が目に浮かびます。
生涯をとおして子どもの幸せを願い、人と本、人と人とを結びつけてくださった松岡さんに再会できる1冊です。
田村 梓(新潟市の小学校司書。子どもたちと一緒に本や昔話を楽しんで、30年になりました。)