「ベッドを買いに行きましょう」―主人公のオリビア(リビー)は、ママと小さな妹と共に高級デパートへやってきました。そこは“世界一すてきなデパート”。入り口にはドアマンがおり、入るとキラキラしたシャンデリア、うっとりするような香水の香りが迎えます。広い売り場も魅力的な商品ばかり。リビーにとって心躍る夢のような場所です。
しかし、ママはなぜか大きなスーツケースを持っており、入店したのは閉店15分前で、さらに“ベッドに隠れろゲーム”と称して店員さんから身を隠します。それに、実はリビーたちにはベッドを買うお金も、ベッドを置く家もないのです。なんと、リビーたちはデパートにこっそり住むことにしたのでした。
物語はリビーの視点で語られます。ママの工夫やリビーの機転で、楽しく、でもちょっとヒヤヒヤしながら過ごす様子は、さながら冒険譚を読んでいるような気分になります。
この本の読みどころはもう一つ。それは、リビーの揺れ動く心情です。
デパートに住むことへの罪悪感を覚えつつ、魅力的な売り場に心惹かれてしまう葛藤。さらに楽天的なママ、まだ小さく天真爛漫な妹への苛立ちと、それ以上に強い「家族が大好き」という気持ち。家がない、お金がないという現実を理解しつつ、目の前の幸せを存分に味わう純粋さは、デパートのどんなものよりも輝いて見えることでしょう。
ちなみに、物語には売り場だけでなく「従業員専用」のスペースも登場します。私はこの本を読んでしばらくの間、お店で「従業員専用」の扉を見かけるたび、それが素晴らしい世界への入り口のように思えてなりませんでした。この本を読むと、そんな魔法にかけられてしまうのかもしれません。
推薦者:佐藤 江理子(新潟県立図書館司書。ユースコーナー担当)