主人公のチト少年は、武器製造で有名な町ミルポワルで生まれ、裕福な両親の深い愛情を受けて育ちます。8歳になると学校に通いますが、なぜか教室では居眠りばかり。学校へ通った3日目、「あなたのお子さんは、ほかのお子さんとおなじではありません」という理由で帰されてしまいます。そこでお父さんは「本から知識を学ぶのではなく、実際の体験から学ばせよう」と考えます。最初の授業は庭師のムスターシュじいさんです。「この植木鉢に土をいっぱい入れて、おやゆびでまん中にあなをあけなさい」と言われ、チトが触れると鉢から見事な花が咲きました。二人はチトのおやゆびに不思議な力があることに気づきます。
チトは社会のことを学ぶために、刑務所、貧民街、病院、動物園、兵器工場を訪れます。囚人や貧しい人々、病気の少女に出会い、自分の持っている力で世の中を良くしたいと考え、それぞれの場所を花で満たすとすさんだ人びとの心に生きる喜びや希望が生まれました。
そんなある日、近くの国で戦争が始まります。いちばん大切なものを失うのが戦争です。チトはある方法で戦争を止めさせます。一方、チトを愛することと兵器づくりは両立しないことに気づいたお父さんは兵器工場を花つくりの工場に変えます。町の道という道に「せんそうはんたいを花で」の旗を立てさせ、平和を呼びかけるのでした。
作者・モーリス・ドリュオンは、第二次世界大戦でナチスのフランス占領に抵抗し、祖国の自由と平和を守るために勇敢に戦いました。そして、生涯に一冊だけ、子どもたちに向かって書いたのが「みどりのゆび」です。1965年に翻訳されてから読み継がれている古典作品です。
チトの本質をついた真っすぐな言葉は柔らかな哲学となって読む者の心に響いてきます。子どもたちは勿論のこと、親子で読んでもらいたい一冊です。
推薦者:野上 千恵子(新潟県立図書館子ども図書室有志の会代表。元図書館司書。新潟県立図書館、県立高校図書館を経て、新潟市の小・中学校図書館に勤務。子どもたちとお話や本の世界の愉しさを分かち合っています。)