「センス・オブ・ワンダー」という言葉を、レイチェル・カーソンは「神秘さや不思議さに目を見はる感性」と説明しています。子どもの頃は、海に沈む太陽を眺めたり、雨に濡れた森を散歩したり、ただそれだけでも自然の美しさに心を動かされるものです。しかし、大人になるにつれて、子ども時代に持っていた自然に対する素直な感性は鈍っていきがちです。
この本は、著者が甥のロジャーを連れて海辺を探検する場面から始まります。砂浜で小さなカニを探したり、森で初めて見る植物を発見したり、二人の経験を描写しながら自然とのふれあいの大切さが書かれています。そこで重視されるのは「知ること」ではなく「感じること」です。例えば、夜に星空を見上げるとき、その星々の名前を知らなくても、宇宙の果てしない広さを感じ、心を解き放つことはできます。著者は、たんに知識を集めることよりも、こういった自然の崇高さを感じるような経験こそが、教育にとって重要だと説いています。
レイチェル・カーソンは、1962年に環境の汚染と破壊の実態を告発した『沈黙の春』を書いたことで知られ、その出版をきっかけにアメリカでは生態系の保護の重要性が議論されるようになりました。短いエッセイである『センス・オブ・ワンダー』は重厚な『沈黙の春』に比べてとても読みやすい本ですが、著者の自然への強い思いが伝わってきます。日々の生活の中で忘れがちな自然への興味を思い出させてくれる本です。
新潟市立内野図書館 司書