大人の本棚・こどもの本棚

白い病

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新型コロナウイルス(COVID-19)というものが世の中に認知されるようになって、1947年に執筆されたアルベール・カミュの『ペスト』が2020年の現在、改めて読み直されているという話を聞きました。時代によって、本が新しい意味を持つようになってきたのです。

本書『白い病』は、「ロボット」という言葉の産みの親であるチェコの作家カレル・チャペックが1937年に書いた戯曲を、2020年の春から阿部賢一氏が少しずつ翻訳してウェブで公開し、2020年9月に岩波文庫の一冊として出版したものです。おそらく私自身は新型コロナウイルスのことがなければこの本に出会わなかったと思いますし、ひょっとしたら阿部氏も翻訳してみようと考えなかったかもしれません。

「白い病」というタイトルは、ペストが黒死病と言われるのに対してチャペックがつけたものです。『ペスト』には戦争は出てきませんが、第二次世界大戦後の世界の読者は、『ペスト』に描かれた病を人為的な戦争と重ねて解釈したといいます。その10年前に書かれた『白い病』は、より直接的に戦争を描いています。戯曲という形式が、戦争への狂気と戦争をめぐる人々の思惑を効果的に表現しているように思います。そして、白い病の特効薬を発明した医師は、戦争から手を引かなければ特効薬は提供しないと為政者に進言するのです。

推薦者:足立幸子(新潟大学教育学部准教授。新潟アニマシオン研究会顧問。専門は国語科教育学・読書指導論。学校や家で子どもが読書をするための方法や環境について研究している。)

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