大人の本棚・こどもの本棚

ウクライナ わたしのことも思い出して 戦地からの証言 

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2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻して以来、終わりの見えない戦闘が続いています。本書は、イギリス生まれのジャーナリストが戦時下のウクライナ各地を訪ね、そこに生きる人々をスケ
ッチし、証言を聞き取った記録です。4歳から99歳までの29名が実名で、戦場での体験と家族や祖国への思いを語っています。

民間人への襲撃が続いたブチャで、息子を殺された女性。ハルキウの避難者が暮らしている地下鉄の駅で、患者の手当てを続ける医学生。クープヤンシクの掩蔽壕(えんぺいごう)で戦う二人の兵士。
誰もが想像を絶する恐怖の中で、一日一日を必死に生き抜いていることが伝わります。

ペンと水彩で描かれた肖像画は、とても美しいです。深い悲しみにじっと耐える姿。理不尽な侵略に屈しない強い意志を秘めた表情。著者は一人ひとりに寄り添い、誠実に耳を傾け、世界に向けて何が
起きているのか、生の声を伝えようとしている。だからこそ、人々は平和への望みを託して自分の物語を語ってくれたのでしょう。

この取材の翌年、著者が同じ人に会ったとき、悲しみや苦しみは解消されておらず、希望や期待は埋もれかけていたといいます。今彼らはどうしているのでしょうか。前線で戦う30歳の兵士の言葉が胸に迫ります。「美しくて、平和で、自由なウクライナに来てもらいたい。いい国なんだ。きっとまた前みたいな、そんないい国にもどるから。」

田村 梓(新潟市の小学校司書。子どもたちと一緒に本や昔話を楽しんで、30年になりました。)

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