皆さんは、新潟の方言で話すことがありますか?
BSNラジオでは、新潟弁を話すキャラクター山本さんが長らく活躍されていますし、「近藤丈靖の独占ごきげんアワー」には、ヒット曲を新潟弁で歌ったり、新潟弁講師の坂内小路先生が活躍していますね。私自身は、新潟弁を操ることはできませんが、聴いていていつも親しみを感じています。
方言を「遅れた」ものとして扱い、子どもたちが共通語を話すように、方言で話した生徒には、首から「方言札」をかけさせる。沖縄県や鹿児島県などで、そのような指導が行われた時代がありました。今はそのような指導は行われていないはずです。一方で、それぞれの地域で、方言の存在感が薄らいでいるといいます。新潟の大学生たちと話していても、方言を使っている人はほとんどいないですし、農村部に取材に行くと、地域の人々のなまりが聞き取れないという学生たちは多いです。
人々の往来が活発化した時代に、多様な方言が守られ、しかも人々のコミュニケーションを維持するにはどうしたらいいのか。最近、青森県の弘前大学が取り組んでいるAI翻訳の取り組みが、注目されています。弘前大学が取り組んでいる「弘大×AI×津軽弁」プロジェクトは、「津軽弁の発話音声や言語情報を収集し、それを活用した津軽弁を誰でも理解できるシステムを開発する」というものです。
患者が話す津軽弁が「難しい」 AI翻訳、青森県外出身の医師を救え:朝日新聞デジタル
青森県は、私の出身地です。個人的には、新潟県にいても、県北地域で高齢の方が話している言葉に、同じような響きを感じることがあります。しかし、東北の他地域の人々からしても、津軽弁というのは相当に難易度が高い言葉だと言われることが多いので、おそらく新潟県北の言葉を話される方々にとっても、津軽弁は容易には理解できないのでしょう。吉幾三さんが、2019年に「TSUGARU」という全編津軽弁のラップの曲を発表しました。私はだいたい意味がわかるのですが、吉さん自身が「津軽の人でも年配でなければ理解できないだろう」と話されていました。
方言が難解だというのは、医療の関係者にとってはかなり深刻な問題で、患者さんの話している症状が、なかなか理解できないという状況が起きます。いわれてみれば、津軽弁は訛りが聞き取りにくいというだけではなく、単語の意味するところにも独特のものがあり、両者が相まってさらに難しさが増しています。たとえば「痛い」という表現についても、「やむ(病む)」「いで(痛い)」「いだくした(痛くした/ぶつけた)」「へずね(せつない)」などの言葉のニュアンスの違い、あるいは「にやにや」といった擬態語のニュアンスの違いなどが、他地域からきた人たちには理解できないのだそうです。
医学部を持つ弘前大学が、津軽弁の壁をクリアしようとする背景には、こうした事情がありました。
弘前大学では、津軽弁の用例をインターネットを通じて一般の方々から収集しています。これらのデータをAIに学習させた上で、「青森県民と国外や県外からの転勤居住者や観光客等との円滑なコミュニケーション」に活かせるような、双方向の変換システムを開発してきたいとしています。「国外」ということはつまり、津軽弁と共通語の翻訳だけではなく、津軽弁と外国語の自動翻訳というのも視野に入ってくるということになります。津軽弁の場合、音の区別が(少なくとも日本語の文字表記で考えると)曖昧なもの、たとえば「し」と「す」の違いがはっきりしないところがあったり、「わ」(私)や「な」(あなた)のように、単語が短いところもあり、おそらくは特有の難しさがあるのだと思います。
私が青森に住んでいた昭和の時代、同じ津軽弁といっても、地域や世代ごとの差がかなり大きかった記憶があります。おそらくこうした多様性も徐々に失われてきているのではないかと思いますが、それだけに、今これを記録しておくことにも、大きな意味があるでしょう。また、コミュニケーションが成り立つ状態を作っていくことにより、「津軽弁で話しても通じる」という環境が維持され、言葉の多様性が守られていくことにもつながっていきそうです。
* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」お伝えしています。
4月16日は、一戸信哉さん のお話をお楽しみください。