ロンドンに住む9歳の少年グレゴリーは、周囲に心を閉ざし自分の世界にこもっていました。両親にも甘えず、自分のものに触られることもいやでした。たった一人心を許していたのは、初老のお手伝いさんマルタ。戦争で母国のウクライナを追われた難民でした。
マルタはおいしい料理を作り、グレゴリーと妹に故郷の話をしてくれますが、この家には「いい場所」がないと言って泣きました。故郷の台所には、マリアさまと幼子イエスのそれは美しいイコンがあり、毎日見ていたというのです。グレゴリーはマルタのためにイコンを探すことを決意し、街へ出かけていきます。でも失敗の連続。とうとう手製のイコンを作ることにしたのです。
失った家族と祖国への思いを募らせながら、20年以上異国で暮らしてきたマルタの孤独と、彼女を慰めようと少しずつ自分の殻の外へ出ていくグレゴリーのひたむきさに、胸をうたれます。
カラーの挿絵が素晴らしく、ラストの一枚はずっと見ていたいほど心に焼きつきます。100ページちょっとの物語。どうぞお読みください。
田村 梓(新潟市の小学校司書。子どもたちと一緒に本や昔話を楽しんで、30年になりました。)