今回のコラムでは、博物館の「展示」手法をテーマにご紹介します。みなさんは、「博物館の展示物には触れてはいけない」というイメージをお持ちではないでしょうか?もちろん触れてはいけない展示もありますが、実は触れることで学びが深まる体験型展示もあります。それが「ハンズオン展示」です。
ハンズオンの意味は「手を置く、触れる」という直訳の通り、来館者が展示物に直接触れ操作することで、体験を通じて学ぶ展示形式を指します。「見るだけ」の展示とは異なり、触覚や聴覚、嗅覚など五感を活用し、展示物の感触や使い方を具体的に体感できます。この形式は、単に知識を伝えるだけでなく、楽しみながら理解を深め、主体的な学びを引き出すのが特徴です。触れることで新たな発見や気づきが生まれ、博物館が「知識を伝える場」だけでなく「体験して考える場」として機能する際にハンズオン展示は有効な手段の一つです。特に、子どもやファミリー層をはじめ、幅広い来館者に親しまれる展示形態です。
「森の学校」キョロロでは、里山の生物多様性をテーマとした常設展や企画展に、この「ハンズオン展示」を積極的に取り入れています。その一部をご紹介します。
例えば、2023年春季企画展「しらべてまもろう!里山の植物」では、クロモジやホオノキといった樹木の枝を紙やすりで削り、植物が持つ多様な香りを体験できる展示を設置しました。嗅覚を使って里山の植物の多様性を感じていただける展示です。
また、2022年夏季企画展「煌めきのチョウ展」では、チョウの翅(はね)が水をはじく仕組みを体験する展示を実施しました。写真のように醤油さしに入った水をチョウの翅(はね)に垂らすと、鱗粉(りんぷん)が水をはじき翅(はね)が濡れるのを防ぐ様子を観察できます。
2016年夏季企画展「その魅力にガクガク! アゴ展 -噛みしめて生き物の進化-」では、バッタのアゴの動きを忠実に再現した巨大頭部模型を製作し、バッタに「噛まれてみる」体験ができる展示を作りました。バッタのアゴの動きを学ぶことができる体験型展示です。
また、ハンズオン展示で生物の造形を拡大して楽しめる展示もあります。2024年夏季企画展「生き物デザイン学校」では、デジタル顕微鏡を使って来館者が昆虫のアゴの形を観察できるハンズオン展示を作成しました。また常設展にある「ZooMuSee(ズームシー)」は4Kの75インチ大型タッチディスプレイで、大迫力の大きさで超高解像度の昆虫写真を細部まで自分で操作し拡大して観察することができます。
さらに、VR技術を活用したハンズオン展示も実施しています。現在開催中の秋冬季企画展「美人林ものがたり-里山の美しきブナの森の秘密-」では、タブレットを持ち操作することで、積雪期の美人林のブナを散策するVR体験を提供しています(同様の内容をYouTubeでも公開中)。冬季はスノーシューを履いて散策を楽しんでいただいていますが、ハンズオン+VRの展示はバリアフリーの面からリアルの散策に参加できない方にも楽しんでいただけるよう配慮しています。
ハンズオン展示には、体験を通じて知識が記憶に定着しやすいことや、五感を活用して視覚だけでは難しい概念を直感的に理解できるといったメリットがあります。「自分で試す」ことで、子どもから大人まで幅広い世代が楽しみながら学べるのも魅力です。今回のコラムでご紹介しきれなかった展示もたくさんありますので、ハンズオン展示で触れる学びの楽しさを、ぜひ実際に感じていただければと思います!
* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。11月23日は、越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員の小林誠さんです。お楽しみに!