みなさんは、いま就かれているお仕事はどのような理由で選びましたか。また、これから将来の職業を決める方は、何を重視して選びますか。
先日、非常勤講師をしている高校の授業で、「仕事は『給料』を重視して選ぶべき」というテーマについて、賛成/反対の立場で議論をするディベート活動を行いました。チームでのディベートの前に、個人ではどう思うか、グループの中で自由に意見交換をする時間をとりました。高校2年生の生徒たちからは、実にさまざまな意見が飛び交いました。
S1(生徒)「安定した生活を送りたいから、給料は大事だと思う」
T(私)「安定した生活ってどんな生活?」
S1「基本的な衣食住が整ってるかんじ。あ、でもおいしいものは食べたいな」
S2「好きなときに有休をとれることが大事」
T「好きなときって?」
S2「たまには旅行にも行きたいし、産休・育休とかもとれるところがいい」
T「そういう制度が整っているかどうか、も仕事を選ぶ際には重視したいってことだね」
S3「昔はなりたい職業というか夢があったけど、今は現実的なことを考えるようになったっす」
T「何になりたかったの?」
S3「警察官になりたかったけど、試験がすごく難しいと知って、そのために学校とかも行かなくちゃならないから、今は自分ができそうなことは何か考え中です」
ディベート自体は与えられた立場で、論理的に主張をして、自分たちの意見がいかに妥当性や優位性があるかを示し、審判によって勝敗が決められる活動です。「自分はこうだ!」と思っても、相手の意見を聞いて納得して、違う角度からの見方や考え方に気づき、再びもやもやと考えさせられます。班ごとに、それぞれの立場で「正解」がない問いに向き合い、自分たちなりの「ベストアンサー」を出そうと話し合っていました。
日本財団が18歳前後の若者を対象に行なっている「18歳意識調査」というアンケート調査があります*。2024年2月に行われた「国や社会に対する意識(6カ国調査)」の回答データから、興味深い結果を目にしました。「仕事を選ぶうえで重視するもの」という質問で、「給料の高さ」が6カ国(日本、アメリカ、イギリス、中国、韓国、インド)共通で上位にきています。同時に「楽しいかどうか」や「自分の興味・関心を合致するか」も上位です。「自分の好きなことや楽しさを重要視しつつも、ちゃんと稼ぎたい」ということでしょうか。物価高の世情を表しているようにもみえます。先述の高校生たちの意見にも重なるところがありました。一方で、「なりたい職業」についての質問では、他国に差をつけて、日本だけは20%以上の若者が「特にない」と回答しています。日本だけが特に多かった理由が気になります。幼少期から、自分自身の興味・関心を広げたり、「こんな自分になりたい」と未来像を具体的に描いたり、そういう経験を積み重ねていくことが大事なのかもしれません。なんでもインターネットで情報を調べられる時代ですが、どんな経験が子どもたちに「実感」をもたらすだろう、と考えさせられます。
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「18歳意識調査:国や社会に対する意識(6カ国調査)」(日本財団 2024)より
SDGs達成に向けて、「教育」は要であるとも言われています。日本の教育においても、昨今では「持続可能な社会の創り手」を育むための教育活動を取り入れていこう、という動きがより高まっています。それは、現代社会にあるさまざまな問題を自らの問題として主体的に捉えて、問題解決に向けて身近なところから取り組んでいける力を育むことでもあります。
自分の職業観や未来像(どんな自分になりたいか)について、生活の安定や余暇の充実といった豊かさを重視することはもちろん大事なことです。そこに、社会の豊かさを考える(こんな社会にしたいという)視点が入ったら、もっとよいなと感じています。学校教育に加えて、地域や家庭の中でも、そうした視点を子どもたちに育んでいけるように、わたしたち大人が、よりよい社会を創っていく姿を見せていかなければ、と思っています。
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「たくさんの人を笑顔にできる仕事」をしたい息子(12歳)の夢は、保育園のときから変わらず新幹線の運転士です。
*参考
日本財団(2024)「18歳意識調査」『第62回―国や社会に対する意識(6カ国調査)―』報告書
* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
2月22日は、にいがたNGOネットワーク国際教育研究会 RING 企画副委員長の関 愛さんです。お楽しみに!