先月、韓国へ行ったときのことです。地下鉄に乗るために、切符の券売機を利用しました。言語を選
択することができ、「日本語」を選択して目的地までの切符を買おうとしました。日本語の場合は、各駅名がカタカナで表示されます。ところが、駅名をメモしてきたものの、漢字だったために読み方がわかりません。慌てて、「英語」に変更。当然、英語読みに変わっただけなので、問題解決にはなりません。スマートフォンはWi-Fiがないため使えません。その時に、ふと目に入ったのが「中国語」の選択肢です。簡体字であり、日本語として見慣れた漢字とは少し異なりますが、形を見てなんとなくわかるために、自分の行きたい駅名を見つけることができ、無事に切符を買うことができました。「まさか、中国語翻訳に頼ることになるなんて」と思うと同時に、多言語で対応していることのありがたさも痛感しました。
韓国の首都ソウルを歩いていると、特に観光客の多いエリアでは、さまざまなところで、いくつかの
言語に対応したサービスがあることに気づきます。都市部の観光エリアにおける多言語対応は、近年日本でも進んできている印象を受けますが、「デジタル先進国」と呼ばれる韓国のほうが、地図アプリや観光案内、駅内の電子掲示板など、デジタルを活用した観光インフラはより発達しています。しかしながら、そんな韓国でも観光客が少ないエリアでは、依然として日本語も英語も通じないことが少なくありません。見知らぬ土地で言語が通じないと、一気に不安になるものです。
余談になりますが、みなさんは、言葉が通じない・メニューがわからない状況で食べたいものを注文
したいときは、どうしますか?こういったときに、スマートフォンが必須アイテムになるのでしょうが、「アナログな(不便さを楽しむ・五感を使う)旅」が好きなわたしは、近くのテーブルで地元の人が食べているものを眺めて、「あれ、ひとつ、ください」と指をさして頼みます。なかなか勇気がいります(笑)

ハングルがわからないわたしを見かねた食堂のおかあさんが、ずっと付きっきりでカルビを焼いてくれました。言葉が通じなくても「美味しい表情」がコミュニケーションツールに。
韓国でグローバル化による多言語対応のニーズを実感し、改めて、「自分が住んでいる街はどうだろ
う」と関心をもちました。そこで、以前、中国から遊びにきた友人を連れて長岡市内を観光したことを思い出しました。日本語がわからない友人の目線で一緒に地元を巡る中で、普段の自分が意識していなかったことに気づく経験ができました。例えば、観光施設や公共施設において、英語や他の言語のパンフレットを置いているところがまだ一般的ではないこと、飲食店の写真入りメニューは誰にとってもわかりやすい良さがある一方で、ハラル*やアレルギー対応かどうかまではわからないこと、などです。
ただ、課題ばかりではなく興味深い取り組みもあります。先日、長岡市国際交流センター「地球広場
」を訪れた際に、やさしい日本語*、英語、中国語、ベトナム語の4つの言語で書かれた「長岡市 洪水ハザードマップ」が目に留まりました。日本で暮らす外国籍の方の中には、もしかしたら母国で台風や大雨、地震などの災害を経験したことがなく、備えるための知識がないという人もいるかもしれません。そういった方々にとって、知っている言語で防災情報を得られることは安心につながるでしょう。ほかにも、多言語による「ごみ収集カレンダー」や人権相談窓口の案内などが置いてありました。
社会の多様化が進んでいる昨今、日本で生活をするうえでのルールや必要な情報を日本語以外の言語
でも発信する、といった公共の制度やサービス、まちづくりのあり方は今後ますます必要性が高まるものだと感じています。みなさんが暮らす地域では、「多言語」の取り組みはどうでしょうか。普段、日本語で当たり前に生活をしている自身の視点を少しずらして、多様な文化背景の人がいることを想像しながらまちの中を歩いてみると、新しい発見がありそうです。

長岡市国際交流センター「地球広場」のパンフレットスペース。救急サービスや熱中症に関する情報もありました。
(*)
ハラル・・イスラム教の教えにおいて「許されているもの」を指す。食べ物の場合は「ハラルフード」という。豚肉やアルコール類などが禁じられている。
やさしい日本語・・難しい言葉を簡単な言葉に言い換えたり、文章を短くしたりするなど分かりやすくした日本語。阪神・淡路大震災をきっかけに、情報を効果的に伝える手段として生まれたといわれている。

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
10月4日は、にいがたNGOネットワーク国際教育研究会 RING 企画副委員長の関 愛さんです。お楽しみに!
