SDGs de はぐくむコラム

SDGsにこそ必要な「ディベート力」

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現在、大学ではSDGsに関する科目を3つ担当しています。その中で「ディベート」に関する講義も行っています。ディベートの一般的な定義は、「集会や議会などの公共の場で、意見が対立する複数の人が、ある論点や課題について議論し、その結果が第三者の投票で決まること」です。自分たちの主張を相手に認めさせ、ディベートで勝つためには、証拠を集め、論理的に説明する力が必要です。

大学の授業で行うディベートは、あくまでも一定のルールに則った「ゲーム」です。2つのチームが与えられた論題に対して肯定側と否定側に分かれ、「立論」→「反駁」→「結論」を述べ、その勝敗を競います。ここで大切なのは、「自分の信条とは関係なく、討論の能力そのものが問われる」という点です。肯定側・否定側のどちらになるかはランダムに決められます。

例えば、論題が「日本の国民食といえば、ラーメン?カレーライス?」の時、自分は「カレーライス派」でも、「ラーメンである」と主張するチームに入ることがあります。その場合でも、第三者にわかるように、「安くて栄養価が高いため生活に深く根づいている」「即席ラーメンの開発により全国に広く普及した」など、論理的に説明していきます。

対戦相手はそれに対して「反駁(反論)」を行います。「即席ラーメンは便利ですが、カレーも固形ルウで同じように手軽に作れます」「また、ご飯に合う点ではカレーのほうが日常に根づいています」といった主張が出てきます。ここで「確かに相手の言うとおりだ」となってしまえば負けです。最後まで、自分たちの主張と相手の主張を比較・検討し、自分たちの立場がより説得力をもつことを「第三者」に訴えることができたら、「勝ち」となります。

このディベートの醍醐味の一つは、「本来は自分と異なる意見でも、なぜ相手がそう考えるのかを知ることができる」点にあります。ラーメン派だった自分が、「あれ、カレーも国民食かもしれない」と思い直す・・・そんな気づきが、ディベートにはあります。

ディベート

では、なぜSDGsにディベート力が必要なのでしょうか?それは、さまざまな課題に向き合うとき、「誰一人取り残さない」ためにも、批判や攻撃的な態度を取るのではなく、多様な考えや価値観を持つ人々が共に生きる社会の中で、自分の考えを、根拠に基づいて伝え、相手を理解し、納得させる力が求められるからです。

最近は熊による被害のニュースを耳にすることが増えました。北海道ではヒグマが業務中の方を襲うという痛ましい事故が起き、本州でもツキノワグマによる事故が多発しています。人命が奪われる深刻な状況が続く一方で、「動物の命も大切にすべきだ」と感じる人も多く、熊の駆除に反対する声も少なくありません。このように、「熊の駆除に賛成する人」と「反対する人」には、それぞれに理由と主張があります。

大切なのは、印象や気持ちだけで判断するのではなく、「なぜ駆除なのか」「なぜ保護なのか」を理路整然と第三者に伝えられるかどうかです。ディベートでは、議論の内容に基づいて客観的な判断が下されますので、「周りの人が言っていたから」や「自分は嫌いだから」といった説明では、論理的な根拠とはならず、ジャッジ(第三者)の納得を得ることはできません。感情ではなく「データ」や「証拠」に基づいて考え、冷静に理路整然と意見を述べる力が求められます。まさしく、その力こそがSDGsの達成に向けた課題を解決していくうえで、欠かせない要素です。

くまさんvs熊

先日、学生たちと「熊の駆除に賛成か反対か」を論題に、ディベートの練習を行いました。「人の命と生活を守ることが最優先」「環境破壊が原因であり熊にも生きる権利がある」など、さまざまな主張が交わされました。

ここ数年は、熊の餌となるブナの実が大凶作で、食糧を求めて人里に下りるケースが増えています。熊は非常に賢い動物で、「人のいるところには食べ物がある」と学習してしまいます。人の命を守るために、残念ながら学習した熊は駆除せざるを得ませんが、その一方で、「人が生活する場所と熊が生活する場所を棲み分けること」も求められます。そのためには、人の手で森林を整備・保全することが必要です。これは、SDGsのゴール15「陸の豊かさも守ろう」にも関係しており、森林を守ることが結果的に「人の命を守ること」につながります。

世界を見渡せば、考え方も価値観も実に多様です。まずは「なぜその人はそう思うのか?」と、一度立ち止まって相手の立場から考えてみると、本当の解決策が見えてきます。ディベート力を身につけることは、SDGsの目標達成に向けて、さまざまな考えを理解しながら、より良い未来を共に創り出す力につながります。皆さんも、ぜひ一度、ディベートに挑戦してみてはいかがでしょうか?

 

  

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。11月8日は、長岡市在住で長岡技大国際産学連携機構 特任講師/主任UEA  の 勝身 麻美さんです。お楽しみに。

http://立石勇生 SUNNY SIDE | BSNラジオ | 2025/11/08/土 10:00-11:00 https://radiko.jp/share/?sid=BSN&t=20251108100000

この記事のWRITER

勝身 麻美(長岡市在住 長岡技大国際産学連携機構 特任講師/主任UEA)

勝身 麻美(長岡市在住 長岡技大国際産学連携機構 特任講師/主任UEA)

1973年 東京都生まれ、高知県育ち。理学博士。初・中・高等教育に従事、一般企業勤務(海外)を経て、 現在は長岡技大国際産学連携機構所属の特任講師/主任UEAとして 、学長からSDGs企画・立案・推進スペシャリストとして特命を受ける。令和3年度科学技術分野 文部科学大臣表彰科学技術賞。
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