オオカミに育てられた子どもという話がありますが、本書のおじいさんに育てられたきつねの話は、違った意味で味わい深いです。
小さなきつねが森に住む五助じいさんの家に迷い込みます。困ったじいさんは、身寄りがないきつねと、農作業を一緒にしながら暮し始めます。あるとき、きつねの一団が家の前を通ります。そこでじいさんはこの子も連れていってくれないかと相談します。
きつねの性分は「化ける」こと。一団は化ける練習をして、人間に化けて、町にいって人間をだまして賢く生きています。でも、じいさんに育てられたきつねは人間に化けられません。このきつねの行く末を案じずにはいられません。
きつねとは違った人の環境で育てられたことが、かえって良きに転じることもある。非常に深い人生訓が含まれている作品です。
中山 英(萬松堂本店店長兼出版社島屋六平出版営業課長。1児(3歳娘)の父。育児と読書の日々を過ごしています。)