SDGs de はぐくむコラム

「だいたいかっこいい」新潟の民謡たち

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最近、テレビやラジオを通じてDJコンビ「俚謡山脈」のお二人が、日本各地の民謡に新たな光を当て続けていることを知りました(いずれもNHKの番組です)。 彼らは全国を巡り、特に私の出身地である青森や岩手、そして新潟といった土地で、中古店などに眠るアナログレコードを発掘し、その地域ならではのリアルな音源を「ディグ(発掘)」しています。遠い地のスターよりも「身近な先輩」の音がかっこいい。民謡は「文化財だから」ではなく「かっこいいからやる」。地域の若者がそのような気持ちで、祭りや民謡に取り組む姿を紹介し、曲についても、DJならではの言葉遣いで絶賛しています。

以前放送されていたテレビ番組では、私の出身地である青森と岩手にまたがり、「南部民謡のクラシック」とも評される定番の盆踊り歌「ナニャドヤラ」に焦点があてられていました。歌詞の意味があまりよくわからない歌ですが、南部地域でそれぞれの地域のスタイルで、さまざまなバージョンが継承されているようでした。

青森の民謡が注目されていたので強く印象に残ったのですが、この夏に放送されたラジオ番組の中では、新潟県内各地の民謡を次々と紹介され、絶賛されていました。

阿賀野市・水原の「水原甚句」については、「新潟といえば樽」と語り、太鼓ではなく樽が伴奏に使われる点、裏から入ってくるビートとあわせて「かっこいい」とべた褒めでした。このほか、新潟市秋葉区の「新津松坂」については「和風のイメージを叩き壊された」「モダンジャズを思わせるような構成」と紹介されました。十日町市の「大の坂」は「南無阿弥陀仏のフレーズが出てくる宗教的な要素を含んだ土地の歌」で、長野から新潟にかけて広がっているとされます。「さか」ではなく「しゃか」だろうとも語られていました。さらに、音源のDIYな質感が素晴らしい「長岡甚句」や、「土地の暮らしに根ざした熱気が伝わってくる」と評された津南町の「からす踊り」も紹介されました。「からす踊り」は、男女の出会いの歌でもあり、男女どちらかの即興の歌、間奏の後、それに返答する即興の歌、という形で展開されていたと、聞いたこともあります。

こうして俚謡山脈の二人は、県内各地の民謡を紹介しながら、最終的に「だいたいかっこいい」「ビート感が良い」「新潟民謡最高」と、感覚的でストレートな言葉でまとめていました。専門的な音楽用語ではなく、DJならではの率直な表現だからこそ、聴いているこちらも「確かにそうだ」と思わされ、私自身、次第に見方を改めるようになっていきました。

そうして迎えたこの夏、私は子どもを連れて初めて新潟まつりの民謡流しに参加しました(誰でも参加できる、飛び入り参加枠です)。実際に歌われ踊られていたのは「新潟甚句」。伴奏を担当する方々が交代で力強く樽を打ち鳴らす姿に目を奪われました。そう、水原甚句の紹介でいわれていた、「新潟といえば樽」の「樽」です。そういわれてみると、その響きは太鼓とはまた違い、地域に根ざした文化の象徴のように思えました。さらに、新潟まつりの民謡流しは生歌で踊られていることも、今回初めて知りました。歌い手の魂のこもった声もあいまって、俚謡山脈の言葉、「新潟民謡最高!」というフレーズが自然に重なってきました。

子どもの頃私は、青森でテレビの民謡番組を見るとチャンネルを変えてしまっていました。俚謡山脈は、民謡番組に出てくるような「舞台」での民謡ではなく、「盆踊り」の熱気や農作業中の歌こそが、民謡の本質だと語ります。DJのお二人が、現代の言葉で民謡を語ることで、消えかかっていた歌に新たな光が当たり、多くの人が再び耳を傾け始めているように感じます。

価値観が対立するいま、「美しい日本文化」という大きな言葉が、排外主義とつながりながらたびたび登場しています。俚謡山脈の活動は、村や町の日常に根ざした歌に価値を見いだすものです。そうした「土地の歌」をたどっていくと、他の国・地域の文化との響き合いも見えてくるように、私には感じられました。実際、新潟で学んでいるネパール出身の留学生たちが、伝統的な衣装をまとい、自国の民謡を歌い踊る様子を動画に収めているのを見たことがあります。彼らが日本の民謡や盆踊りをどう感じているのかは、まだ聞いたことがありません。ただ、自分たちの民謡を誇らしげに、そして楽しそうに表現している姿は、「民謡ってかっこいい」と感じて、地域の活動に参加する日本の若者の姿とも重なって見えました。土地の文化を大事にする留学生の姿と、新潟で民謡を受け継ぐ人々の姿の間には、通底するものがあるのではないかと感じます。

SDGsが掲げる「地域文化の継承」というのは、このことなのでしょう。子どもたちに、地域に眠る宝物のような文化を肌で感じてもらうこと。それは郷土を愛する心を育むだけでなく、多様な価値観を受け入れる柔軟さを育てることにもつながるはずです。この夏、新潟まつりで見た歌と踊りは、まさにその原点でした。

『だいたいかっこいい』新潟の民謡――地元の歌を、もう一度聞き直してみませんか。

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。9月13日は、新潟市在住 敬和学園大学人文学部国際文化学科教授の一戸信哉さんです。お楽しみに!

http://立石勇生 SUNNY SIDE | BSNラジオ | 2025/09/13/土 10:00-11:00 https://radiko.jp/share/?sid=BSN&t=20250913100000

この記事のWRITER

一戸信哉(新潟市在住 敬和学園大学人文学部国際文化学科教授)

一戸信哉(新潟市在住 敬和学園大学人文学部国際文化学科教授)

青森県出身。早稲田大学法学部卒業後、(財)国際通信経済研究所で情報通信の未来像を研究。情報メディア論の教鞭を取りながら、サイバー犯罪・ネット社会のいじめ等を研究。学生向けSNSワークショップを展開。サイバー脅威対策協議会会長、いじめ対策等検討会議委員長などを歴任。現在:敬和学園大学人文学部国際文化学科教授。
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