縁あって、2014 年から川崎フロンターレというプロサッカーチームの、ファミリーアートディレクターという役職で、チームに関わっている。ちょっと変わった役職だが、川崎フロンターレは、ホームゲームごとに、観客や地域の方に向けて様々なイベントを毎回行なっている。これが本当に驚くようなイベントが多く、「よくもまぁ…」と呆れるほどに(笑)素晴らしい。
そのおかげか、試合日のホーム等々力スタジアムには、たくさんの子どもたち、家族連れのサポーターも多く観戦に訪れる。そのファミリー層に向けたデザインでチームのイメージを作っていくことが、僕のこの仕事の大きな役割だ。僕も、子どもがまだ小さい頃、家族でよく等々力スタジアムに応援に行ったが、その開放感と熱狂は、普段の生活にはない特別な時間だった。子どもたちにスポーツそのものの良さや、楽しみ方をスタジアムの中で自然に感じてもらい、その後の人生の楽しみが少しでも増えてくれたら、親としてはとても嬉しいことだと思った。
実は、僕自身がサッカーと出会ったのはわりと遅い。同世代の多くがそうであるように、僕の子どもの頃は、野球がスポーツの中心で、観るのも実際にプレーするのも野球だった。
そんな僕がサッカーに出会ったのは20歳を過ぎ、上京し何年か経ってからだった。当時まだサッカーはJリーグ発足前の日本リーグ時代で、たまたまリーグ戦や年末の天皇杯を観に行ったことがきっかけだった。
まだ、がらんとした客席で、ぼんやりボールの行方を追うのは、広いスタジアムの効果もあり、開放的でリラックスできた。何回か続けて観戦し、各チームの戦い方の違いや、選手の特徴などがわかってくると、どんどんサッカーにのめり込んだ。サッカーボールを蹴ったこともなかった僕が、公園で一人ボールを蹴ったり、定期的に仲間とフットサルをするまでになった。
上質なエンターテイメントやアートのように、サッカーは観ているものの予想を覆すような想像溢れるプレーが多く、実際の仕事にもどこか似ているところがあって、刺激になったのかもしれない。
ここまで書くと気づいた方もいるかもしれないが、そう、僕が上京し、そんなふうにサッカーと出会って、夢中になった頃にはまだ、アルビレックス新潟というチームは存在していなかったのだ。だから僕とアルビは、すれ違い。新潟出身でサッカーが大好きだけど、僕の育った新潟にはまだ、アルビはなかったのだ。もしも、僕が子どもの頃の新潟にアルビがあったら、おそらく今とは違ったサッカーとの関わり方をしていただろう。
そんなアルビがついにJ1に帰ってくる。また久しぶりにフロンターレとアルビが対戦する日がやってくる。実はフロンターレはアルビを苦手としていた時期があり、特にビッグスワンの試合は鬼門と言われていた時期があった。
来シーズンが、どんなシーズンになるのか、もちろんまだわからないが、自分が関わり愛するフロンターレと、地元のアルビとの対戦は、特別な戦いになるだろう。ここ数年僕は、J2で戦うアルビをテレビや、時にはビッグスワンで応援してきた。だけど、来シーズンのフロンターレ戦だけは、もちろんフロンターレを応援することになる。アウェイの遠征としてビッグスワンでこの2チームの対戦を観るのは数年ぶりで、複雑な気持ちもあるが、僕にとって最高の時間だ。
いわゆるスポーツファンだけでなく、子どもからお年寄りまで、たくさんの方がスタジアムに足をはこび、チームを応援する。選手、スタッフもそんな観客のことを一番に考え、誰もが安全に試合を楽しめる雰囲気づくりをしっかりと作っていく。そういった試みをしっかりやっているという点では、おそらくこの2チームはJリーグの中でもトップクラスではないかと思っている。そんな2チームの対戦は、来シーズン絶対に見逃せない。ビッグスワンや等々力スタジアムで、真剣な選手のプレーを、目を輝かせながら楽しむ子供たちの姿が今から楽しみだ。そして、そんな子どもたちを、僕はものすごく羨ましく感じるだろう。
* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
10月15日は、ハレッタのキャラクターデザインを手がけた、イラストレーターでアートディレクターの大塚いちおさんです。お楽しみに!