SDGs de はぐくむコラム

接触しない学校のミライ

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新型コロナウイルスの感染者が新潟県内で初めて確認されてから1ヶ月が過ぎました。「学校」は4月から再開とのことですが、このエッセイを書いている3月末の段階では、まだ予断を許さない状況が続いています。

休校がつづく間に、にわかに注目をあびつつあるのが、「接触しない学校」、つまりインターネットを介した授業や課題学習のスタイル、これを利用した学校づくりです。新型コロナウイルスが蔓延した中国では、徹底した外出規制がしかれ、授業をオンラインで行うようになりました。ダンスや美術のような実技科目まで、先生たちが工夫して授業を行っている様子が、日本にも流れてきていました。中国の人たちは大変だなあと思っていた私達ですが、その後、日本にも同じような状況がめぐってきています。新学期、私達はどうするのか。日本の小中高、さらには大学も選択を迫られています。

私が大学で直面しているのは、オンラインによる「接触しない授業」をどのように実現するかということです。今の大学教育では、10年前の講義ノートをそのまま読み上げるという教員はもういません。常に講義内容をアップデートすることはもちろん、課題・プレゼンテーション・主体的な学習…、さまざまなものを組み合わせて、学生のモチベーションと学習効果を上げる努力をしています。メンターとして、アドバイザーとして、学生を支援する役割も、日常的に学生たちに接する教員に期待されているところでもあります。つまり学生たちと「会う」「接する」ということが前提に組み立てられている部分が多くあるわけです。小中高では、「会う」「接する」がもっと大事にされていると思います。
しかし「会う」「接する」ということで実現されてきたコミュニケーションは、今後しばらくは、「接触しない授業」の中で実現しなければなりません。「オンライン授業」の利用が、「学びを止めない」ために必要な要素になりつつあります。大学教員の中でも、オンラインツールに慣れているとそうでない人のギャップは大きく、これをどのように埋めていくのか。課題となっています。

この1ヶ月、急速に注目されているのが「zoom」を始めとするオンライン会議ツールです。テレワーク会議ツールとして便利というだけでなく、インタラクティブな講義(質疑応答などができる講義)にもかなり使いやすいツールだと見られています。また、資料を配布したり、課題を提出してもらったりするツールにも、さまざまなサービスがあり、学生ごとに課題提出状況を一覧にできる機能があるなど、うまく使えば授業の効率化ができます。提出された課題の添削と返却もオンラインでできます。こうした様々なツールをうまく使いこなせば、「接触しない授業」は実現できるでしょう。これらのツールの使い方、その組み合わせ、効果的利用方法の研究を、教員が短期間で進めることができるのか。問題はこの点にあります。

学生がこの新しい環境に慣れることができるのかも課題です。若い学生たちはすぐに「オンライン」になれると思いがちですが、これまで先生の利用が低調であった分、学生もこれらの教育用ツールに慣れていません。1人1台の端末の学習環境をうまく作ってこれなかった日本では、こうしたことがすぐにできない学生も少なくありません。

それより最大の問題は、回線環境です。いろいろ聞いてみた感じでは、自宅に固定のインターネット回線がない学生も少なくありません。1ヶ月に◯ギガの容量制限があるスマホ回線で、1コマ90分の授業に動画の送受信を使って参加すると、あっというまに容量上限に達し、いわゆる「ギガが足りない」状態になります。公衆無線LANが使える公共空間にいくという手はありますが、密集した環境をさけるために遠隔教育をするのに、人の密集する公共空間に集まるのでは、本末転倒です。

Face to Face、面と向かって話す、というのは、お互いがもっとわかりあえるコミュニケーションだと考えられてきました。その価値観はいまも揺らいではいないと思いますが、少なくとも新型コロナウイルス問題が終息するまで、行動を修正することが求められています。これまで、実際に「会う」「接する」ということに費やされてきた「コスト」を見直し、実はオンラインでも「それなりに」実現できることはある。むしろうまくいくこともあるかもしれない。子どもたちの成長に直接関わる学校においては、なかなか「実験」はできなかったのですが、今は「実験」的であっても、学びを止めないための努力が求められています。この先に見えるミライは、むしろ明るいものになるのか。

今回は、学校側が「オンライン」授業のために積み上げている努力の様子について述べました。子どもとの関わりで、ネットと言えば遊びの道具か危険なツールと思われがちですが、日常でも、オンライン化が先生の日常業務を効率化し、わかりやすくよい授業を作り上げるベースをつくる可能性を持っています。さらに、こういう場面では、みんなができる範囲で受容しながら、社会を維持していくものにもなってきている。学校とご家庭が車の両輪となって、未来の扉を開いていけたらと思います。

BSNラジオ「大杉りさのRcafe」4月4日(土)あさ9時~放送予定

この記事のWRITER

一戸信哉(新潟市在住 敬和学園大学人文学部国際文化学科教授)

一戸信哉(新潟市在住 敬和学園大学人文学部国際文化学科教授)

青森県出身。早稲田大学法学部卒業後、(財)国際通信経済研究所で情報通信の未来像を研究。情報メディア論の教鞭を取りながら、サイバー犯罪・ネット社会のいじめ等を研究。学生向けSNSワークショップを展開。サイバー脅威対策協議会会長、いじめ対策等検討会議委員長などを歴任。現在:敬和学園大学人文学部国際文化学科教授。
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