保育園に通う娘は、園でのお散歩のたびに自然の中で拾った落ち葉やどんぐりなどを袋にいれて持ち帰り、楽しそうに紹介してくれます。秋はお散歩も楽しい季節。足元に落ちている葉っぱや木の実は、子どもたちにとってその季節ならではの宝物なのでしょう。
以前、保育園や幼稚園で「どのような自然体験活動が行われているのか?」、市内全園を対象にアンケート調査を行ったことがありました。通年では「散歩」を通じて自然を親しまれており、季節的・単発的には「野菜づくり」「砂遊び」「雪遊び」「ザリガニ釣り」「自然物を使ったクラフト」「野遊び」「田植え・稲刈り」など、園独自で様々な自然に親しむ活動を行われていることがわかりました。
しかし、保育園の先生方とお話をしていると、こんな声をよく聞きました。
「保育士自身が自然のことをあまり知らないので、園児になかなか身近な自然のおもしろさを伝えきれない」。
「お散歩にはよく行くが、その季節の自然の面白さがわからないので、園児とうまく共有できない」
こういった声は、キョロロの自然体験イベントに参加される保護者のみなさんからも聞かれるもので、普段園児らと接する現場の先生方も同様に、子どもの自然体験をめぐる悩みがあるのだなと気づきました。集団保育の場での自然体験をより充実したものにするために、自然系博物館ならではの支援ができないか、と考えることが多くありました。
このような背景から現在キョロロでは、園児たちが五感を使って楽しみながら生物に触れ合う出張型の自然体験教室「いきもの教室」を実施しています。年間を通じてほぼ毎月で実施する園や、要望があったタイミングで単発的に実施する園など、実施形態は様々です。また、郊外型・都市型の園それぞれの周辺環境に合わせた内容で実施しています。
園庭や裏山の自然環境をフィールドにした活動では、田んぼでのカエルの卵の採集し観察したり、草地でのバッタ採集し観察したり。キョロロの飼育生物や自然史資料を活用した活動では、昆虫類・両生類・魚類の生体観察、哺乳類の頭骨標本や鳥類の剥製の観察、ハチの巣の解体など、保育活動の中で身近な里山の生物多様性への興味関心を促す自然体験活動を実施しています。
いきもの教室では、観察した様子を絵として描いたり工作を行ったりと表現活動とセットで実施するケースも多くあります。これは生物をよく観察する目的があるのと同時に、クレヨン、ハサミ、のりなど普段園児たちが使う道具を用いて、園での普段の表現活動と連動させるための工夫の一つです。描いた絵は必ず活動の最後に学芸員の視点から講評を行っており、先生方からも好評をいただいています。
保育園への出張事業を展開する中で、先生方の協力は欠かせないものです。クラス部屋に野外活動で注意が必要なウルシやマムシなどの生物の見分け方を張り出したり、園児が描いた絵や制作物を部屋や玄関などに張り出したりしていただいたりしています。さらに、事前打ち合わせやふりかえりで、保育士の視点からの各回の改善点などもいただいています。園での事業は他にもたくさんある中、各回を特別な1回としてだけではなく、普段の保育活動の中に位置づけてくださった先生方の協力は非常に大きく、とても感謝しています。
先生方からは「保育士自身が興味を持つことで、園児に効果的に伝えることができた」「アリも触れなかった子が、最後には『生き物が大好き』と言えるようになったことにびっくりした」など、保育士自身が楽しみながら学びを深め、子どもたちの成長を実感する機会にもなっていたと感じました。保育の場において自然体験活動を実施する際には、園周辺の環境の特徴を活かすのと同時に、自然体験の意義を認識し、学びを楽しみながら、保育士自身の立ち位置を明確にすることも、重要な要素であると感じました。
幼稚園教育要綱では、幼稚園教育の目標の1つとして「自然などの身近な事象への興味や関心を育て、それらに対する豊かな心情や思考力の芽生えを培うようにすること」を挙げており、同様に保育所保育指針においても保育の目標の一つとして「生命、自然や社会の事象についての興味や関心を育て、それらに対する豊かな心情や思考力の基礎を培うこと」を挙げています。
地域の自然科学館として、幼少期の子どもたちの楽しい自然体験を今後もサポートしていきたいと思います。
【参考】小林・岩西(2020)自然科学館における幼児期を対象とした環境教育の実践.日本生態学会誌 70 巻1号
* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
12月10日は、十日町市在住 越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員の小林誠さんです。お楽しみに!