2025年、新潟大学村山研究室はエプソン株式会社との共同プロジェクトとして、アフリカ・セネガル共和国の子どもたちに向けた教育コンテンツ開発に取り組んできました。プロジェクトの目的は、単なる体操教材の制作ではなくて、「体操 × 絵本 × デジタル技術 ×国際交流」を統合して、幼児期の社会的情動スキル(SEL)の育成につながる新たな国際教育モデルを創出することです。
近年、日本を含む世界各国で、子どもの運動量の低下、コミュニケーション機会の減少、感情コントロールの難しさが教育課題として指摘されています。さらに途上国では、情動教育に体系的にアプローチする教材や環境が十分に整っていない現状も課題と捉えています。セネガルにおいても、学力重視型教育の傾向が強く、身体活動や表現活動の機会は限定的だと感じました。

学校の様子
セネガルの教育を取り巻く課題に対し、研究チームはまず現地調査に向かいました。ダカール、ティエス、ダラ地域を訪問し、JICAや教育行政機関、保育園・小学校と連携しながら教育環境を観察することができました。そこでは、体育の授業がほとんど行われていない学校、電気設備が不安定な校舎といった教育を取り巻く実態が見えてきました。一方で、子どもたちはリズムや身体表現を非常に好み、ジャンベという楽器の音が鳴ると自然に身体を揺らす姿が印象的でした。

セネガルの子どもたちと
セネガルの現地の文化的な特性を尊重しながら学生たちが考案したのが、ライオンの主人公「レオランガ」と一緒に行う体操交流プログラムです。レオランガは感情によってたてがみの色が変わります。喜びは黄色、怒りは赤、悲しみは青、安心は緑、物語を通して感情を“見える化”し、自分の気持ちに気づくきっかけをつくる構成としました。

学生たちが考案したキャラクターのレオランガ
絵本も作成しました。ジャンベのリズムを表すオノマトペ「ドンドコパッ」がたくさんできてきます。この言葉は、言語を越えて共有できる音の体験となります。実際に読み聞かせを行うと、子どもたちは自然と「ドンドコパッ」と口ずさみ、リズムに合わせて身体を動かします。言葉の壁を超え、音と動きが共通言語となる瞬間を感じました。
体操プログラムは、「正確さ」よりも「楽しさ」を重視しています。これも学生たちの想いが反映されています.。自由な身体表現文化を持つセネガルに合わせ、決まった動きを強制するのではなく、繰り返しや掛け声、触れ合いを通して一体感が生まれる構成が、なんとも学生らしいです。
さらに、数を数える、大小や速さを意識する動きも取り入れ、認知発達へのアプローチも試みているのが創造性豊かで面白いプログラムです。

説明を受けるセネガルの子どもたち
音楽制作は試行錯誤の連続でした。既存楽曲の転用は難しく、外部音楽家との協議や学生による制作も試してみましたが、最終的にはAI音楽生成ツールを活用して、ジャンベのリズムを基調とした楽曲が完成しました。90〜120bpmのテンポで、子どもが自然と身体を動かしたくなる構成を目指したのがポイントです。日本語・英語・フランス語・ウォロフ語に対応できる掛け声形式として、多文化環境でも活用できるよう配慮したのも学生たちのアイデアです。

学生たちが導きながらみんなで体操
現地での実証実験では、保育園から小学校まで約350名以上の子どもたちが参加しました。プロジェクターを用いた大規模実践では、120名を超える子どもたちが二つの大きな円をつくり、リズムに合わせて一斉に体操を行いました。その光景は圧巻で、活動後のインタビューでは「楽しかった」「またやりたい」という声が多く聞かれました。
また、日本とのオンライン交流会も実施しました。時差9時間を越え、ジェスチャーゲームやクイズを通して交流が生まれました。日本とセネガルの距離を考えれば仕方ないのかもしれませんが、音声の遅延などの課題はあったものの、子どもたちは画面越しに手を振り、笑顔を交わすことができました。国境を越えた体験は、子どもたちの記憶に強く残る学びになったといえます。

教室での様子
このプロジェクトは、単なる教材開発ではなく、大学・企業・国際機関・現地教育者が協働するモデルだと考えて取り組んでいます。エプソンのプロジェクター技術と教育研究の知見、JICAのみなさんとの連携が組み合わさることで、SDGs4「質の高い教育」とSDGs17「パートナーシップ」を体現する実践になったと実感しています。
身体を動かすことは心を動かすことにつながります。感情を色で捉え、音で感じ、仲間と共有する経験は、自己理解と他者理解の土台を育むと考えます。文化や言語の違いを越えて、リズムと笑顔は共通の架け橋となる取り組みは意義深いです。
セネガルの校庭で響いた「ドンドコパッ」の声は、日本の子どもたちの教室にも届きました。小さな体操から始まったこの取り組みが,子どもたちの心の中に確かな記憶として刻まれることと思います。
未来の教育は、教室の中だけで完結するものではないというのが私たち関わるメンバーの想いです。世界とつながり、からだを通して学び、感情を理解し合うこと、レオランガのたてがみが虹色に変わるように、子どもたちの可能性もまた、多様な色を帯びながら広がっていくことでしょう。このプロジェクトが,子どもの未来づくりの第一歩となるよう,これからも活動を展開したいと思います.
* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。2月21日は、新潟大学人文社会・教育科学系准教授 村山敏夫さんです。お楽しみに!


