SDGs de はぐくむコラム

6月から〇〇が禁止された身近な生き物

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幼少の頃、近所の池でザリガニ釣りをするのがとても楽しかった思い出があります。巣穴に手を突っ込んで挟まれたり、大きなザリガニが釣れるとうれしかったりと、飼育も含めて幼少時に生き物に触れ合った原体験の一つです。

日本には二ホンザリガニという在来種のザリガニが生息しています。この日本固有種のザリガニは北海道と東北地方のみに生息する絶滅危惧種で、新潟県には生息していません。新潟県には、県内ほぼ全域で見られるアメリカザリガニと、下越地方の一部の河川に定着しているウチダザリガニの2種のザリガニが確認されています。どちらも日本にもともといなかったアメリカ原産のザリガニの仲間です。

アメリカザリガニ

このように、もともとその地域にいなかったのに人間活動によって他の地域から持ち込まれた生き物を「外来種」と呼びます。最近、様々なメディアなどで外来種という言葉が、生態系への影響や人への被害と共に紹介されることが多くなりました。池の水を抜くと現れる大きなウシガエルやカミツキガメ、アニメの影響で人気が出てその後の放逐・逸出により野生化したアライグマ、県内では未確認ですが各地の港で定着が確認されたヒアリなど、人間活動にともなって海外から多くの生物が侵入・定着し、各地で生態系や人の生活に影響を与えています。

海外から日本に入ってきた外来種の中でも、特に生態系や人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすと考えられる生物は、外来生物法(正式名:特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)で「特定外来生物」に指定されています。特定外来生物は飼育、栽培、保管、運搬、販売などが禁止されており、違反した場合は、最大で3年以下の懲役または300万円以下の罰金となることがあります。飼育する、逃がすことが犯罪となる生き物がいる、ということです。上記で紹介したウシガエルやアライグマも、この特定外来生物に指定されている生き物です。

実は冒頭で紹介したアメリカザリガニが、今年6月1日から「条件付特定外来生物」に指定されました(※1)。アメリカザリガニが侵入定着すると、在来の水生生物が減少・絶滅したり、さらには田んぼのあぜに穴をあけたりと、生態系や農業への大きな影響を与えることがわかっています。「条件付」という言葉がついているのには理由があり、学校や家庭での飼育者がとても多い生物でもあるため、いきなり飼育等を禁止すると逆に野外に逃がす飼育者が増えることが懸念され、かえって生態系等への被害を生じるおそれもあります。そのため、飼育などを適用除外とする「条件付特定外来生物」に指定されました。これにより、これまでどおり野外で捕まえること、逃げられないケースで飼育することは可能ですが、野外への放出・販売などは今年6月から禁止となりました。
※1:詳しくは、環境省のHPなどをご覧ください。

アメリカザリガニ増殖で水草が消失。懸濁した水は「ザリガニ色」と呼ばれる。

幼少時の私は、「外来種」という言葉、外来種のザリガニがいること、特定の外来種は生態系に大きな影響を与える生き物であることを、たぶん知らなかったと思います。現在は様々なメディアでも外来種という言葉が使われるようになり、この言葉の意味も含めて外来種の認知度も増加しています。保育園・小中学校の体験学習の際にも、この言葉を知っている子どもたちが多いと感じています。
キョロロではこれまで、外来種をテーマとした企画展の開催、地域内の外来種の生息調査、外来種の駆除活動などを実施してきています。館内で人気だった「ザリガニ釣りコーナー」は、アメリカザリガニの「条件付特定外来生物」指定のタイミングで現在休止としていますが、市民参加型でのアメリカザリガニの捕獲調査・分布調査(※2)、ザリガニが侵入した池の生き物調査などを展開し、科学的な根拠に基づく地域の外来種対策につなげるために、基礎的なデータの収集や教育普及活動を進めています。正しく知ることで、考えること、守れることがあると思います。地域の生物多様性を知り・伝え・保全する活動の中で、今後も外来種について皆で考えていきたいと思っています。
※2:とおかまちザリガニ捜索隊

4月から毎週開催してきた市民参加型ザリガニ捕獲作戦

 

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
12月16日は、越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員の小林誠さんです。お楽しみに!

この記事のWRITER

小林誠(十日町市在住 越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員)

小林誠(十日町市在住 越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員)

1980年、長岡市生まれ。北海道大学大学院環境科学院博士後期課程修了(環境科学博士)。大学時代は北海道をフィールドに北限のブナ林を研究。現在、十日町市立里山科学館 越後松之山「森の学校」キョロロ学芸員。里山の生物多様性をキーワードに教育普及、体験交流、観光や産業などの側面から、地域博物館を活用した地域づくりに挑戦中。2児の父親。
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