SDGs de はぐくむコラム

モノとの思い出

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娘たちがまだ幼かった頃、おもちゃがそのままになっていると「おかたづけしようか」とよく声をかけた。うっかり硬いプラスチックのブロックを踏んでしまった時も、ゆっくり休みたいベッドがお人形さんたちのお家になっていた時も、娘たちに僕はそう声をかけた。だけどそんな僕は、実はかたづけが得意ではない。

なかなか片付かない理由の一つは、仕事だ。僕の仕事は一つのことが終わって次が始まる訳ではなく、いつも複数の仕事が同時に進む。常に描きかけのスケッチや資料があって、きちんとかたづける間も無く、次々と進んでいくため、時間と共に机の上には色々なモノが積み重なっていく。雑誌や映画のチケット、出力した資料や画像、打ち合わせのメモやラフスケッチ、そして描きかけのイラストなどなど…。
僕のほとんどの作業はアナログで、鉛筆や絵具を使って描いているため、描けば描くほど、描いたモノも机に溜まっていく。もちろん、すぐにいらないと気づいたモノは捨てているが、それでもなぜかどんどん溜まっていってしまうのだ。

そして、困ったことに、たくさんのモノが溜まっている状況が嫌かというと、実はそうでもない。机の上のちょっと前の仕事の資料が偶然目にはいり、「あ、そうだ」とまた別の資料を探したり、「これ、ちょっと面白いな」とそこから新たな発想が生まれることも、よくあるからだ。そうしたことから、イマジネーションは膨らみ、僕の仕事をするエンジンの回転が上がっていくのだ。
おそらく僕は、好きなモノやいろいろなモノに囲まれ、触発されて仕事をするタイプで、モノが何一つない整頓されたスタイリッシュな机の上での作業が、できないタイプなのだろう。

なかなか片付かないもう一つの理由は、モノを捨てられないことだ。本やレコード、古着屋でみつけたTシャツやトレーナーなど、個人的にも、資料としても大切なモノで、どれも心が動かされて購入したから、なかなか手放せない。
断捨離という言葉の意味も、わかってはいるのだが、いざ離れようと思うと決心することができないのだ。

 

先日、僕の新作絵本が出版された。

NHK Eテレ「みいつけた!」の人気曲「グローイング アップップ」を絵本化したものだ。放送されていたアニメーションの原画も僕が描いたものだったが、今回は絵本のためにすべて描き下ろした。文は作詞も手掛けた宮藤官九郎さんが、やはりこの絵本のために新たに書き下ろしてくれた。
番組で流れていた曲の内容と同じように、この絵本も主人公の「ぼく」と「ごはんのいす」のお別れを描いている。絵本では、さらに成長することへの不思議さや、それに対しての子どもの戸惑いの様子も描かれている。
僕は放送と同じように2人を描きながら、宮藤さんの文章から感じた「ぼく」と「ごはんのいす」の仲の良さが伝わるように、2人の微妙な表情や様子を丁寧に描いた。
成長し、お別れすることを受け入れる2人の表情、ずっと2人で一緒にいた過去のシーン、そしてお別れするシーンなど。
人とモノだけど、きっとそれだけではないことを想像し描いた。

誰だって使わなくなったモノを、そのままずっととっておくことなどできないし、どこかでお別れするだろう。だけど、なかなか離れられない気持ちや、モノとの思い出、モノを大切にする気持ちの存在に、この絵本で気づいてくれたらと思う。
そしてこの絵本も、みなさんに寄り添うように、ずっとそばに置いておきたくなるような、長く大切に愛してもらえる一冊になると嬉しい。

あれ、こんなことばかり考えていたら、また僕の部屋の片付けが進まなくなってしまうかもしれない。

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
1月28日は、「ハレッタ」のキャラクターデザインを手がけた、イラストレーターでアートディレクターの大塚いちおさんです。お楽しみに!

この記事のWRITER

大塚いちお  (東京都在住 イラストレーター・アートディレクター )

大塚いちお  (東京都在住 イラストレーター・アートディレクター )

1968年上越市生まれ。イラストレーター・アートディレクターとして、テレビ、CMなどのイラスト・デザインを手掛ける。子ども番組「みいつけた!」(NHKEテレ)アートディレクションを担当。連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK)タイトルバックイラストなど。子ども向けのワークショップも多数開催。2005年に東京ADC賞受賞。東京造形大学特任教授。
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