このコラムを書いていると、外からミンミンゼミの鳴き声が聞こえてきます。小学生の頃、夏終盤に鳴き始めるこのセミの声を聴くと、あぁ夏休みもあとわずかだと焦ったものです。
私が暮らす里山では、昼間はセミの大合唱に包まれ、夜はコオロギのやさしい音色が聞こえ始めました。これから秋に近づくにつれ、赤とんぼが増え、カマキリが産卵し、家の中にカメムシが侵入してくると「あぁ秋だなぁ」と感じます。季節の移ろいの中で様々な虫に出会い、季節を知る機会にもなります。
私たちの暮らしの周辺では、場所や季節によってさまざまな虫に出会います。都市部であっても、蚊、ゴキブリ、クモ(※1)など、家の中に現れてしまう虫たちがいます。虫よけスプレーや防虫剤、殺虫剤などが店頭に並ぶのも、季節を感じる一幕です。
キョロロではこの夏も昆虫に関する様々なイベントを実施してきました。「昆虫標本づくり」「夜の昆虫探検」「ムシ採り罠づくり」など、昆虫系のイベントはどれも人気ですぐに定員いっぱいになります。館内の昆虫に関する展示も人気で、お絵かきコーナーでも虫の絵を描く子どもたちが一番多いです。「子どもたちはみんな虫が好き」そんな感覚さえ感じてしまいます。
※1)昆虫ではありませんが、広義の虫とします
しかしみんながみんな虫が大好きという訳ではなく、虫が苦手という方もたくさんいます。「なぜ虫が嫌われるのか?」について、今年3月興味深い研究が発表されました(※)。それによると「虫嫌い」は特に先進国や都市部に多いと言われており、都市化により野外よりも室内で虫を見る機会が多くなったことや、自然体験の減少により虫を区別できなくなってきたことが、虫嫌いを強めている可能性として指摘されています。
※2:Fukano, Y., & Soga, M. (2021). Why do so many modern people hate insects? The urbanization–disgust hypothesis. Science of the Total Environment, 777, 146229.
同時に、野外や類似環境で昆虫を観察する機会を増やす事や、虫の知識が増えたり、区別できたりすることが、その緩和に繋がることも指摘されています。子どもたちは小学校3年生になると理科で「虫の体のつくり」を学びます。また生活科や総合的な学習の時間でも身近な自然に触れ合う機会として虫を観察する機会もあります。学校教育の中でも昆虫について学ぶ機会があるものの、昔に比べると「昆虫少年少女」は減少し、昆虫標本を夏休みに作る子ども達が減少していることも耳にします。
まさに「昆虫少年少女」が絶滅危惧種になっているという現状です。新潟県内では胎内昆虫の家、長岡市立科学博物館、キョロロなど常設展・企画展で昆虫について深く学べるミュージアムや、様々な団体が昆虫に関連したイベントを実施しています。近年では「新潟にムシ好きを増やし、未来の昆虫博士を育てよう」と、県内の昆虫の研究者らが「昆虫はかせネットワーク」を立ち上げ、県内各地で昆虫に関するイベントを実施しています。県内の昆虫界隈が盛り上がってきているように感じます。虫が好き、興味がある皆さんはぜひご家族でご参加してみてください。きっと昆虫の多様性や面白さに触れることが出来ると思います。
昆虫はアートとの相性も良く、作品のモチーフになることも多いです。大地の芸術祭の拠点施設でもあるキョロロでは、昆虫を人間大に拡大した作品を野外設置しており、その細部にわたる造形美を楽しめます。こんなところに毛がある、よく見ると輝いているよ、模様はこうなっているんだ、昆虫を見る子ども達からはいろいろな気づきや発見の声が聞こえてきます。
地球上には約170万種の生物が知られており、そのうち昆虫は約100万種を占めます。まさに多様性の象徴のような生き物です。しかし世界的に都市化が進む中で、昆虫が減少してきていることも知られています。生物多様性の保全はSDGsのゴール14「海の豊かさを守ろう」、ゴール15「陸の豊かさを守ろう」の大きなテーマでもあります。幼少期から自然に触れ合う原体験の大切さが叫ばれる昨今、虫を見る子どもたちの輝く目、「なぜ?」「もっと知りたい」その好奇心、探求心を大切にしていきたいです。昆虫を通じて身近な生き物の多様性を感じてみてはいかがでしょうか。
もちろん「虫が好き、苦手」は個人の自由です。我が家では長女→虫大好き、次女→虫が苦手です。毎年カイコを飼育したり、家族で昆虫採集を楽しんだりすることも多いですが、今後娘が「虫が苦手」→「虫ちょっと好きかも」に変わるかどうか、見守ろうと思います!