SDGs de はぐくむコラム

令和7年度健康寿命をのばそう!サロン in EXPOに登壇しました

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20256月に開催された「令和7年度 健康寿命をのばそう!サロン in EXPO」に登壇しました。大阪・夢洲で開催される関西万博の会場内の「テーマウィークスタジオ」にて実施されたイベントです。

このイベントのキーワードは、「つながる・学ぶ・ひろがる 健康づくりの輪」です。健康づくりにおける全国での先進的な取り組みを「共有」し、参加者同士が「共感」し、次のアクションにつなげるできる場がこのイベントでした。

我が国では平均寿命が男女ともに80歳を超える一方で、健康寿命(日常的に介助を必要とせず、自立した生活を営める期間)との間には、約10年のギャップが存在するとされています。この差は、単に医療技術の発展や長寿の達成という文脈では語り尽くせない、複雑な社会的課題を内包しているように感じています。「どのように生きるか」「最期まで自分らしく過ごせるか」が問われる時代になっているということです。健康寿命を延ばすことは、医療・介護の費用抑制に資するだけでなく、個人の生活の質(Quality of Life)を高め、地域の持続可能性を支える重要な柱となります。こうした背景を含め、厚生労働省が推進する「スマート・ライフ・プロジェクト」は、健康づくりの主体を個人の努力にのみ委ねるのではなく、社会全体で支える仕組みを再構築しようとするプロジェクトです。その現場の取り組みを広く共有する場が、「健康寿命をのばそう!サロン」です。

登壇者のみなさんと

この日のサロンでは、4つの先進的な取り組みが紹介されました。それぞれの発表は、異なる地域と組織で展開されており、多様な視点から健康を捉えるうえで私も非常に学びとなりました。

まず、飛騨市役所では、地域の食習慣を見直すための減塩食品プロジェクト「まめなかな!」の取組を紹介してもらいました。住民と協働しながら、既存の商品に減塩バージョンを展開し、食の選択肢を広げることで、無理のない食習慣改善を促すユニークな試みです。行政によるトップダウンではなく、現場から生まれたアイデアが実装された点に大きな意義を感じました。

次に、ミタニ建設工業株式会社からは、従業員の健康増進を目的とした「筋肉・脂肪買い取りキャンペーン」の報告がありました。筋肉量の増加や体脂肪率の減少を、金額換算で評価し、報奨を与える仕組みで、参加者の動機付けを巧みに引き出していたのがユニークです。健康の数値化と報酬制度の融合によって、企業内での健康行動が自然な文化として定着している様子が印象的でした。

株式会社Ambiは、睡眠や環境をテーマにした「世界一健康なまちづくり ― 10001 movement」の取り組みを紹介してもらいました。「心と身体、そして地球にやさしいライフスタイル」を掲げ、睡眠改善、運動促進、地産地消の食生活、脱炭素などを包括的にデザインするというスケールの大きなプロジェクトです。個人の行動変容が、地域全体の価値観や環境意識の転換へとつながる構造が描かれていました。

ケーススタディで取り組みを報告する登壇者

そして我々の取り組みです。「みんなが身体を動かしたくなる!仕組みづくりへの挑戦」と題し、「ハンドルぐるぐる体操」や「PARTY体操」といった実践例を通して、身体を動かすことの意味をどうデザインするか、またその先にある共感と拡がりをどう生み出すかを伝え増した。「ハンドルぐるぐる体操」は、交通事故ゼロを目指す「ゼロフェイタリティ」をテーマにした取り組みであり、運転に関連する筋肉の活動を促すような工夫が施された体操です。ドライバーの身体機能維持を図るだけでなく、「安全運転」への意識喚起の機会として設計し、実際に高齢ドライバーを対象とした講習で活用しています。また、「PARTY体操」は、子どもから高齢者まで誰でも参加できるよう、リズム・音楽・ストーリー性を活用した体操プログラムです。世代を超えた共通の身体経験を通じて、地域のつながりやウェルビーイングの醸成を目指しています。近年では、幼児教育の現場や福祉施設、地域の運動会など多様な場面で展開しています。

こ体操を用いた取組に共通するのは、「動きそのもの」よりも「動きたくなる仕掛け」の設計です。テーマが明確であるために参加者が意味を見出しやすく、また音楽や楽しさを加えることで、やらされるではなくやりたくなる仕掛けを実現しています。

このような取り組みは、行動科学、身体教育学、社会実装研究といった複数の学術領域と接続しており、科学的評価が可能である点も大きな特徴といえます。

我々研究室の体操プログラムが特筆すべき点は、「楽しさ」や「参加しやすさ」といった感性的価値に加え、科学的根拠に基づいた設計と効果検証が進められている点だと思っています。特に、健康寿命に直結する身体機能や運動能力の維持・改善に資する要素が、明確な目標として組み込まれているのは様々な現場で高く評価を得ています。

たとえば、「ハンドルぐるぐる体操」では、肩関節や体幹、下肢の可動性や筋力を維持するような構成がされており、特に高齢ドライバーの運転技能維持と関連づけて、実際のシミュレーション実験や運転中の動作との関連性を分析しています。これは単なる体操ではなく、「予防医学」や「交通安全教育」とも接続した多面的な介入です。

また、「PARTY体操」では、実践の中で参加者の心理的反応(楽しさ・達成感)や社会的つながり(共に身体を動かすことによる一体感)についての質的調査も行われており、ウェルビーイングの定性的評価を重視しています。

地域と健康への想いを語る筆者

これらの取り組みが自治体や教育現場、企業で実践する際には、実施前後での身体機能測定やアンケート調査による効果測定が行っており、「やって終わり」ではなく、「実施評価改善」という評価と見える化によってデザインしています。これは、大学の研究室ならではの強みでだと考えています。

一方で、こうした先進的な取り組みが全国的に展開され、持続的な社会的効果を生み出すためには、いくつかの課題もあります。

第一の課題は、健康関連介入はその効果が短期間では見えにくく、定量評価が難しいという点です。特に、ウェルビーイングや行動変容といった視点では、主観的指標と客観的指標をどう評価として扱うかが困難です。そのため、あらゆる分野の現場との協働によってデータとの共有を図り、長期的に追跡可能な評価設計を組み込む必要があります。

次に体操プログラムや健康教室は、参加できる人とそうでない人との間に格差が生まれやすいとも考えています。たとえば高齢者の中でも、生活環境による制約から集会所や運動施設に足を運べない人もいます。また、技術を通じた仕組みづくりを目指す場合もデジタルが苦手な高齢者もいます。ここは工夫が必要です。

最後は、健康づくり活動の多くは人材確保と資金的支援に課題を抱えています。我々も健康教室やイベントを現場で担う人材確保には苦労しています。若手の育成や地域のコミュニティに根差した自走型の運営モデルを確立することが不可欠なのですが、いまだ課題です。これらの課題に対応するため、我々の研究室では根拠に基づく体操の実践と仕組みづくりに取り組んでいます。

今回の「健康寿命をのばそう!サロン in EXPO」に参加し、アイデアを実行力による実践が社会を変える可能性をあらためて感じています。我々の取り組みは、単なる健康体操の紹介にとどまらず、「人が動きたくなる」「意味を感じて続けたくなる」仕組みのデザインそのものであり、それが社会課題解決に直結していくと信じて、学生たちと共に取り組んでいます。科学的根拠に基づくプログラムづくりと、多様な人々の参加を促す楽しさ、そして共感を生むテーマ設定が組み合わさることで、持続可能な健康づくりとして定着していくように思います。最後に、このイベントの一日を通じて感じたのは、「健康をつくるのは制度でも専門家でもなく、誰かの思いと行動である」という原点です。その思いを可視化し、共有し、広げていく場づくりこそが、健康寿命を延ばす最大の戦略だと再認識できました。

我々の挑戦は、まさにその最前線にあり、学術研究と社会実装をつなぐ架け橋として、これからも取り組んでいきます。

体操の実演をする研究室メンバー

 

  

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。7月12日は、新潟大学人文社会・教育科学系准教授 村山敏夫さんです。お楽しみに!

http://立石勇生 SUNNY SIDE | BSNラジオ | 2025/07/12/土 10:00-11:00 https://radiko.jp/share/?sid=BSN&t=20250712100000

この記事のWRITER

村山 敏夫 (新潟市在住 新潟大学人文社会・教育科学系准教授)

村山 敏夫 (新潟市在住 新潟大学人文社会・教育科学系准教授)

1973年 十日町市生まれ。新潟大学大学院修了。新潟大学SDGs教育推進プロジェクトに取り組み、SDGs未来都市妙高普及啓発実行委員会委員長、新潟市SDGsロゴマーク選考会委員長を担当。出雲崎町、上越市など地域と連携した教育・健康・パートナーシップの仕組みづくりも担う。
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