SDGs de はぐくむコラム

サクラサク春、花たちの“作戦”をのぞいてみよう

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「開花を宣言します」。
そんな言葉が聞こえてくる季節になりました。ちょうどこの原稿を書いている頃、新潟市でもサクラ(ソメイヨシノ)の開花が発表されました。各地でサクラの開花宣言がニュースで流れると、春の訪れを感じる方も多いのではないでしょうか。お花見も、楽しみですね。

四季のある日本では、サクラは春を象徴する存在であり、私たちの暮らしや文化にも深く根付いています。サクラサク春。進学や進級で、新しい一歩を踏み出す子どもたちも多い季節です。わが家でも、この春、娘が高校へ進学しました。

今回は、そんなサクラの話題から少し視点を広げて、「春の花の作戦」についてご紹介します。春は、さまざまな植物が花を咲かせる季節。そしてその一つひとつに、植物の繁殖の工夫が隠されています。ぜひ、お散歩や自然観察の中で、「この花はどんな作戦で咲いているのだろう?」と考えるきっかけになればうれしいです。

まずは、毎年花粉症の方を悩ませる存在としておなじみのスギです。花粉症の私にとってもつらい存在ですが、実はこれもスギの見事な「作戦」のひとつです。

スギも植物ですので花を咲かせますが、虫に花粉を運んでもらうのではなく、風に運んでもらう「風媒花」です。では、なぜこの季節に花を咲かせるのでしょうか?

その理由は、春の森の状態にあります。早春はまだ広葉樹の葉が芽吹いておらず、森の中に“障害物”が少ないため、風がよく通ります。こうしたタイミングに花を咲かせることで、花粉をより遠くまで届けることができるのです。

さらに、スギの雄花一つからは約40万個もの花粉が放出されるといわれています。小さく軽い花粉を、風が通りやすい季節に一斉に飛ばす。受粉の確率を高めるための、スギの巧みな作戦なのです。

写真1:スギの雄花

次は、山菜としても親しまれる「フキノトウ」。春の訪れを感じさせる味ですが、実は私たちが食べているのは、キク科フキ属フキの花芽、つまり「花」そのものです。

フキノトウをよく見ると、黄色っぽいものと白っぽいものの2種類があることに気づきます(写真2・3)。この違い、実は雄株(♂)と雌株(♀)の違いです。黄色っぽく見える雄株は、小さな花が集まったつくりで花粉をつくる役割を持ちます。一方、白っぽく見える雌株は、細い糸のようなめしべが集まった花をつけます。先ほどのスギとは違い、フキは虫に花粉を運んでもらう「虫媒花」です。春、雄株に訪れた虫が花粉をつけ、雌株へ移動することで受粉が行われます。雄株は花の季節が終わると枯れてしまいますが、雌株は受粉後には花茎をぐんと伸ばし、綿毛のついた種子を風に乗せて広げていきます。多くの植物はひとつの個体内に雄雌が一緒にありますが、フキは、雄と雌の機能が株で分かれる、少数派の植物の仲間です。

さて、春の苦みが特徴のフキノトウですが、雄株と雌株で味が違うのか気になるところです。これについては「雄が好き」「雌が好き」と好みが分かれるようですが、結局のところ、どちらも春の味としておいしくいただける、ということでしょう!

写真2:フキの雄株

フキの雌株

そして、今年ぜひ注目したいのがブナの花です。
ブナは毎年ではなく、数年に一度、広範囲で一斉に開花し、大量の種子を実らせます。これは、捕食者が食べきれないほどの実をつけることで、種子の生存率を上げ、子孫を確実に残すための進化的な生存戦略と考えられています。そして今年2026年春は、数年ぶりのブナの一斉開花が見られるチャンスです。いわば“ブナのお花見”ができる特別な春が訪れます。

昨年はブナの花が咲かない、凶作年でした。秋の実りの多い少ないは、クマなど野生動物の行動にも大きく影響するといわれています。ブナの凶作年はクマの出没が多いことがよく知られており、実際昨年の秋には、各地でクマの大量出没に至り、ニュースをにぎわし各地で大きな社会問題となりました。サクラサク春に重なり、今年は“ブナが咲く春”でもあります。その実りが秋の森や野生動物の動きにどのように影響するのか、自然のつながりにも注目していきたいところです。

写真4:ブナの花

こうして見てみると、花はただ美しく咲いているのではなく、それぞれが繁殖の工夫を凝らしています。風に乗せる、虫を呼ぶ、咲く年をそろえる、同じ「咲く」という現象の中に、こんなにも多様な戦略があるのです。

この春はぜひ、サクラも楽しみながら、足元、通学路、身近な公園などで、花たちに目を向けてみては、いかがでしょうか。普段何気なく見かける植物も、「どんな作戦で咲いているのだろう?」と考えてみると、春の景色が少し違って見えてくるかもしれません。春は、花たちの作戦会議でにぎわっています。

    

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。4月4日は、越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員の小林誠さんです。お楽しみに!

http://立石勇生 SUNNY SIDE | BSNラジオ | 2026/04/04/土 10:00-11:00 https://radiko.jp/share/?sid=BSN&t=20260404100000

この記事のWRITER

小林誠(十日町市在住 越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員)

小林誠(十日町市在住 越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員)

1980年、長岡市生まれ。北海道大学大学院環境科学院博士後期課程修了(環境科学博士)。大学時代は北海道をフィールドに北限のブナ林を研究。現在、十日町市立里山科学館 越後松之山「森の学校」キョロロ学芸員。里山の生物多様性をキーワードに教育普及、体験交流、観光や産業などの側面から、地域博物館を活用した地域づくりに挑戦中。2児の父親。
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