小さな頃からお兄ちゃんと一緒にキョロロに通っている小学生のD君。保育園の頃は参加者だった森のようちえんイベントも、小学生になってからは子どもスタッフとして活躍しサポートしてくれる、生き物好き、野遊びの達人でもあります。
D君のように、キョロロには足しげく通ってくれる、生き物好き、野遊び好き、博物館好きの子どもたちがたくさんいます。今回は3年前の夏に起こったD君の大発見と、それに寄り添った大人たちの存在についてご紹介します。
今から3年前の2019年8月、D君はお母さんと一緒にキョロロに接するフィールド「キョロロの森」を散策し、夏休みの自由研究として里山のいろいろな生き物を探し観察していました。その時、散策路の標柱に不思議なものを見つけます。それは綿のようなものでモサモサと覆われたセミの死骸です。
「これは、いったい何だろう?」
「風の谷のナウシカ」の腐海に出てくるような特徴的なフォルム。
これは生き物なのだろうか?D君は最初、セミの卵かなと感じたようです。
不思議に思ったD君は、お母さんと一緒にすぐにキョロロに連絡をくれ、私たちはすぐに専門家の大学の先生に照会を行いました。すると、驚くべき事実が判明したのです。実はこれ、昆虫の死骸に生える珍しいカビの1種「スポロディニエラ・ウンベラータ(Sporodiniella umbellata Boedijn)」で、日本では当時十数例しか報告がなく、しかも新潟県では初記録のカビだったのです。
プレスリリースを経て、この発見は新聞やニュースでも大きく取り上げられ大きな反響がありました。Yahooニュースでは一時、アクセスランキング2位となり、関連ツイートが数千リツイートされ、この夏の日本の自由研究を象徴する発見となったようです。普段から自然をよく見ているD君の「何だろう?」という探求心の賜物です。
寄せられたコメントや反応を見ていてとても興味深かったのは、子どもの「何だろう?」を無下にしない大人の態度・役割の大切さ、子どもの発見に寄り添った大人たちの存在を指摘する多くの声でした。ともすれば嫌悪感を抱きかねない得体のしれないものを目の前にした時、子どもの小さな「?」に「気持ち悪い」という言葉で終わらせず、驚きや感動をお母さんは共有し、疑問の掘り下げをサポートしていただきました。我々ミュージアムとしても、子どもたちの小さな「?」をとても大切にしています。大人が子どもの興味関心を受け止め寄り添うことは、好奇心の芽が育つ中でとても大切だと感じています。
今年、沖縄のある動物園施設の取り組みが注目を集めました。園内の生き物を展示する企画展に設置された掲示物には、以下のような文章がつづられています。
<虫に対して「気持ち悪い」「きたない」「こわい」と、お子様の前で言わないでください。(中略)保護者の方が「気持ち悪い」というと、この価値観はずっとお子様に植え付けられてしまいます。ひとそれぞれの好みはありますが、いきものが持つ魅力を感じた上で、お子様自身から出てくる感情を大切にしてあげてください>
※沖縄こどもの国(沖縄県沖縄市)企画展「小さな先生たち」より
人間はそれぞれ苦手なものがあり、感じ方ももちろん違います。このメッセージが伝えたい意図は、先入観を植え付けずに、子どもの感性を大事にしてほしい、ということだと思います。わからないもの、不思議なものを目の前にして子どもたちが覚える小さな驚きや感動は、その集合体として、彼らがこれから世界をみる「ものさし」の一つになっていくでしょう。例え小さな「?」であっても、私たちは大切にしたいものです。キョロロにも「自分は生き物が苦手だけれども、我が子が生き物大好きなので」と、お子さんと来館、イベントにご参加いただく親御さんも少なくありませんが、お子さんと一緒に展示や体験を楽しんでいただいています。
D君の得体のしれない生き物との出会いで生まれた「これは、いったい何だろう?」という疑問は、親子でしっかり共有され、疑問で終わらせず「博物館に聞く」という選択肢がしっかり機能し、今回の大発見につながりました。あの日送られてきた画像を見たとき、スタッフと共に「おぉぉぉぉこれは!」と驚き興奮し、すぐに専門家の大学の先生に照会したことを記憶しています。これは普段からキョロロをわが庭のように利用してくれていたD君やご家族の探求心の賜物と同時に、私たちミュージアムにとっても「地域に根差す博物館」の意義を改めて感じる非常にうれしい機会となりました。
* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
9月10日は、森の学校キョロロの小林誠さんです。お楽しみに!