はぐくむコラム

「土」に触れるということ

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「土から離れては生きられないのよ」

スタジオジブリの長編アニメ「天空の城ラピュタ」で、主人公の一人シータがムスカ大佐に向かって放った言葉です。「土」はしばしば子どもたちの遊びの対象となりますが、日常的に土に触れ合うこともなかなかできない現在。今回は子どもたちが「土」に触れることについて考えてみたいと思います。

写真:土遊びは楽しい!

我が家の小さな畑でも大根が収穫の時期となり、先日娘たちと土だらけになりながら収穫を行いました。爪に入った土、土汚れびっしりの服、なぜ頭にも土がつく⁉、土に触れ合う成れの果てはいつもこんな感じです。長靴の中も土だらけなのは頑張った証拠と褒めながら(笑)、土を洗い流すと現れる真白な大根。畑の野菜からは、いつも土の匂いがします。畑仕事は土との触れ合いの絶好の機会です。子どもたちは保育園や小学校でも、野菜づくりやお米作りで土に触れる機会がありますが、土汚れってなかなか洗濯しても落ちないですよね。できれば土汚れをつけたくない、そんなお気持ちもよくわかります。

写真:土汚れはなかなか落ちないですね^^;

キョロロでは里山の自然を体験する様々な自然体験プログラムを実施しており、修学旅行や林間学校といった教育旅行の受け入れも多数行っています。ブナの森を散策したり、ため池で水生生物を採集&観察したり、里山の自然を探求するこういったプログラムでは、夢中になりドボンと泥だらけになる子どもも少なくありません。と同時に、汚れるから、汚いから土に触りたくない、そんな子どもたちももちろんいます。

数年前、関東地方から教育旅行でいらっしゃった中学生の自然体験活動。同行された校長先生との雑談の中で、子どもたちの自然体験の機会が少なくなったとお話していた先生から、こんな言葉をお聞きしました。

「今日来た子どもたちの中には、人生で初めて土の上を歩く子どもがいます。」

この言葉を聞いた時、とても衝撃を覚えたことを記憶しています。でも考えてみると、私たちの身の回りには土のない校庭やグラウンド、土のない公園、土のない道、土のないお家やお店は一般的で、通学、通勤、買い物、レジャーといった暮らしの動線の中に土がないというのは、現在ごくごく普通のことです。「土から離れては生きられないのよ」と言ったシータの言葉とは裏腹に、普段の暮らしの中で私たちはわざわざ土に触れなくても暮らすことができます。そう、土との触れ合いは非日常なのです。

写真:土の上を歩く子ども

これまでのコラムでも「子どもの自然体験の減少」や「森のようちえん」など、子どもと自然を取り巻くトピックをご紹介してきました。幼少期から自然に触れ合う原体験の大切さが叫ばれる昨今、子どもが土と触れ合うことの健康面への効果について、フィンランドで行われた興味深い研究(※)をご紹介したいと思います。

それによれば、普段から森に出かけている園や、園庭の遊び場環境を実験的に森の土や植物がある環境に変えた園の園児は、そうではない園の園児に比べ皮膚や腸内細菌の多様性が高くなる傾向にありました。加えて免疫に関する血液中の生理学的指標を調べると、免疫炎症レベルが低下し、免疫機能が向上する傾向にもありました。子どもたちが遊びの中で「土まみれになる」ことと健康指標との関連を科学的に評価した事例として現在注目を集めています。

※Roslund M., et al.(2020) Biodiversity intervention enhances immune regulation and health-associated commensal microbiota among daycare children. Science Advances 6: eaba2578.

写真:森の土で遊ぶ子ども(ブナの森のようちえん)

自然と触れ合う機会の減少は現在社会問題として広く認識されており、健康や教育への影響、ひいては環境問題に歯止めをかける上で根本的な障害の一つとしても認識されています。「土から離れては生きられないのよ」と言ったシータの言葉に、私たちの社会の未来像を重ねて眺めてみた時、その担い手の私たちの礎を築く幼少期の原体験の重要性を改めて感じます。日常的に自然と触れ合う機会がなかなか作りづらい現在ですが、園や学校、ご家庭での野菜づくりといった体験は、割と手軽に土と触れ合える機会かもしれません。土との触れ合い、なかなか落ちない汚れは付きますが、なかなか消えない記憶や経験値も残るはずです。

写真:森の土で遊ぶ子ども(ブナの森のようちえん)

キョロロで毎月開催しているイベント「ブナの森のようちえん」では、休耕田を使った「泥あそび」を年に一度開催しており、また「田植え」「稲刈り」「ビオトープづくり」といったイベントでも、参加した子どもたちは泥だらけになって楽しんでいます。

写真:泥遊びの様子

写真:稲刈り後の泥遊び

泥だらけの子どもたち、ほんといい顔しているんです。

 

*11月20日(土)BSNラジオ 朝10時~「立石勇生 SUNNY  SIDE」で放送予定です。

この記事のWRITER

小林誠(十日町市在住 越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員)

小林誠(十日町市在住 越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員)

1980年、長岡市生まれ。北海道大学大学院環境科学院博士後期課程修了(環境科学博士)。大学時代は北海道をフィールドに北限のブナ林を研究。現在、十日町市立里山科学館 越後松之山「森の学校」キョロロ学芸員。里山の生物多様性をキーワードに教育普及、体験交流、観光や産業などの側面から、地域博物館を活用した地域づくりに挑戦中。2児の父親。
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