SDGs de はぐくむコラム

ウィルス禍のストレスと音楽

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昨年早々に出現した新型コロナウイルス感染の流行は瞬く間に世界中に広がり、多くの人が命を失い、未だに世界中の人々の生活や心身面の健康に大きな影響を及ぼし続けています。最近の研究では、大人だけでなく、子どもにおいても様々な精神的な影響が指摘されるようになり、不安やうつ症状が増え、ネット・ゲーム依存も増える傾向にあるようです。毎日コロナ禍の悪い情報しか目にしないような状況ですが、コロナ禍に打ち克とうとする人々の活動も世界的に報告されてきています。

昨年3月に、感染が広がって医療機関も大変な状況になったイタリアで、外出が原則禁止されていた各地において、人々がバルコニーや窓辺で歌を歌ったり、楽器を演奏したりしてお互いを励まし合っているシーンがニュースで流れていました。この活動にはコロナ禍に打ち克とうする大切な意味があることを示唆している興味深い研究成果が今年3月にアメリカの研究者によって発表されたので紹介したいと思います。「新型コロナウイルスパンデミック下における幼い子どもを持つ家族の音楽活動と親子の愛着」というタイトルの論文です。生後6~70か月(平均35.9か月)の子どもの保護者177名(実母94.4%)に対して、オンライン調査を行いました。親子の愛着の状態を評価する質問として、「子供と一緒にいるとき、緊張や不安を感じるか」などの17項目の質問で構成される質問票を使用して評価しました。結果は、コロナ禍によって音楽を通した親子の関わりがある親子は増えていて、音楽の関わりのある親子は、そうでない親子と比べて、統計的に有意に親子間の愛着関係が良好であったというものです。論文には、5歳7か月児の親の「悲しみやストレスを感じている時は、私たちは好きな曲を聴いたり、踊ったりします。これでストレスが解消され、気分が高揚します。」という思いや、生後33か月の子どもを持つ親の「私の末っ子はほとんど音楽を通して生きています、そしてそれはロックダウンの前より今の方がより盛んになっているようです。」という発言が掲載されています。

音楽が心身の健康の回復や向上に効果があることは昔から知られており、現在は音楽療法として様々なところで活用されています。実は、音楽と「幸せホルモン」「愛情ホルモン」などの異名を持つ「オキシトシン」というホルモンと関係があることが少しずつ分かってきました。もともとは、オキシトシンは子宮を収縮させて分娩を促進させたり、母乳の分泌を促進させるホルモンとして知られていました。その後、研究が進むにつれて、様々な働きがあることが分かってきました。「幸福感」をもたらす、ストレスが軽くなる、他者への信頼感が高まる、記憶力が向上するなどの働きがあることが分かってきました。このオキシトシンの分泌を促すものに、信頼関係が成り立っている相手や犬などのペットとのスキンシップ、ハグなどの触れ合い、友人や恋人との会話を楽しむ、香りを楽しむといったことが知られていますが、音楽もオキシトシンの分泌を高めることが分かってきています。母親の子守歌が子どものオキシトシンの分泌を促します。グループ合唱に参加することや安らぐ音楽を聴くことも、オキシトシンのレベルを上げるとされています。コロナ禍でも、家族で合唱したり、楽器を演奏したりすることが、ストレスを発散させ、家庭生活を楽しいものにし、家族関係を深め、子どもとの間では愛着を育てることに効果があると考えられます。時には、場所の配慮は必要ですが、家族で一緒に歌ったり、踊ったり、楽器を弾いてみてください。オンラインで合唱したり、合奏したりすることも効果があるようです。

BSNラジオ「立石勇生 SUNNY SIDE」9/11(土)午前10時台 オープニングナンバーの後「はぐくむコラム」のコーナーでご紹介予定です。

この記事のWRITER

田中篤(長岡市在住 長岡赤十字病院小児科医)

田中篤(長岡市在住 長岡赤十字病院小児科医)

1954年長岡市生まれ。千葉大学医学部卒業、新潟大学医学部小児科学教室に入局。以降、県内各地の小児科に勤務し、小児疾患全般のほか、小児心身症・不登校・子ども虐待・災害時の子どものこころのケアなどの診療に従事。現在:長岡赤十字病院小児科医。
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