2023年はSDGsの目標達成までの折り返し地点となります。世界的なパンデミックや自然災害、戦争などにより、目標達成への取り組みが停滞してしまいましたが、この遅れを取り戻すためには、迅速な「変革」が求められています。一人一人がSDGsを「他人ごと」ではなく「自分ごと」と捉え、より良い社会づくりに少しでも寄与できるよう、個人、企業、政府、国際機関がそれぞれの立場で積極的に行動を起こす必要があります。製造業、建設業、情報通信業、高等教育機関などへ多く就職する本学の学生たちは、「世界を変革できる」未来の技術者として、SDGsマインドを身につけるべく、学習、研究、実務訓練、サークル活動、アルバイト、プライベートなど・・・日々忙しく過ごしています。
現在、私は、本学の学部生(3・4年生)に対し、「SDGs入門(SDGs基礎)」を教えています。各ゴールを細かく検証していくので内容量も多く、きっと学生たちにとっては大変なものだと思います。毎回、学生たちに感想と課題の提出を求めていますが、テレビのコメンテーターにも引けを取らない鋭い意見が寄せられ、睡魔との戦いだ!といったコメントもあれば、研究に非常に役立つ、先生の授業が好き♡、といった感想もあり、感想&課題チェックがとても楽しみな時間となっています。大学は学生のためにありますから、毎回の授業は真剣勝負です!
今回のコラムでは、ゴール6の講義で取り上げた「バーチャルウォーター(仮想水)」について書きたいと思います。
現在でも、世界の約半数の人々が水道を使えるようになったとはいえ、池や川など飲用に適さない汚い水を飲む子どもたちが多く存在します。水に恵まれた日本人は、やっとの思いで水を手に入れている他の国々の人々と比較して、水の価値やありがたみに気づかないかもしれません。「実は、私たちは水に非常に困っている国から水を奪っているかもしれない」と知ったら、どう思いますか?そこで注目されるのが「バーチャルウォーター(仮想水)」という概念です。バーチャルウォーターとは、食料を輸入している国(消費国)が、その食料を自国で生産しようとした場合に必要となる水の量を見積もったものです。
海外から食料を輸入する日本は、その食料生産に必要な水分を自国の水からではなく、他国の水から消費していることになります。つまり、食料の輸入は、水を間接的に輸入しているとも考えられます。環境省のホームページでは、「仮想水計算機 ※ 」というツールを通じて、バーチャルウォーター量の計算が可能です。例えば、輸入したパンと牛肉から作られたハンバーガー1つを作るためには、約999リットル(500mlペットボトル2,000本分)の水が使われています。ですから、そのハンバーガー1つを食べるということは、2,000本のペットボトル分の水を輸入したとも考えることができます。このような計算が成り立つ理由は、牛の餌であるトウモロコシを1kg生産するためには、田畑を潤す灌漑用水として約1,800リットルの水が必要になります。そして、牛はこのような穀物を大量に消費しながら育つため、牛肉1kgを生産するのに、その約20,000倍もの水が必要となるからです。
もちろん、食べ物だけでなく、工業製品の生産にも水は必要とされます。農畜産物に比べると少量ではありますが、無視できない量です。皆さんが「今、手にしているもの」には、バーチャルウォーターが使われているのです!
現在、基本的には、水が豊富で食料生産に余裕がある国の水資源を有効に利用し、水資源量の多い国から少ない国へバーチャルウォーターが貿易されていると考えられます。そのため、「バーチャルウォーターは悪い」と一概には言えません。しかし、今後、枯渇する可能性のある水資源を用いて生産された食品を継続的に輸入することは、持続可能性に反すると言えます。
私自身、ハンバーガーや焼肉などが大好きなので、これからも牛肉は食べ続けるでしょう。食べたり飲んだりする際には、食べ物や飲み物への感謝の念とともに、持続可能性を考慮して生活したいと思います。
※環境省:バーチャルウォーター
https://www.env.go.jp/water/virtual_water/index.html
* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
6月17日は、長岡技術科学大学 SDGs推進室員 勝身 麻美さんです。お楽しみに。