SDGs de はぐくむコラム

ワンダーの扉をひらく

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今、日本の学校では、「主体的な学び」が教育活動において求められています。では、子どもの主体的な学びはどのようにしたら実現できるのでしょうか。

そんなことを考えたときに思い浮かぶのが、アメリカにある「チルドレンズ・ミュージアム(子どものための博物館)」です。みなさんは、ミュージアム(博物館・美術館)というと、どんなイメージをもちますか。「展示物に触ってはいけません」「静かに見ましょう」といった格調高い印象でしょうか。

チルドレンズ・ミュージアムは、「触って、肌で感じて、学びましょう」というスタイルを重視した体験型の施設です。子ども自身が直接体験することから新しいことを発見したり、創造性や想像力を養ったり、さらに探求(探究)する過程から世の中で生きて働く知識やスキルを学んだりできる場所となっています。このようなミュージアムは、1899年にニューヨーク市ブルックリンに初めて開館*し、その後世界中に広がりました。日本でも1990年代から、そのような施設やミュージアムの参加型プログラムが増えてきたようです。
「子どもが主体的に学ぶためには?」のヒントがチルドレンズ・ミュージアムにはたくさんある気がします。そして、それは学校教育だけでなく、子育てにおいても大事にしたいことだと思っています。

私が20歳の時、チルドレンズ・ミュージアムについて書かれた書籍を読んだことをきっかけに、「どんなところなのか見てみたい」と一人で東アメリカを2週間ほど旅しました。当時、大学で学ぶ中で、「知識を伝達することに留まらない教育」に関心をもっていたことも動機の一つでした。ニューヨークを中心にボストンやフィラデルフィアの街にあるチルドレンズ・ミュージアムを、書籍に記載されている住所だけを頼りに巡りました。大きなところもあれば、公民館のような規模のところもあり、巡った数は20ほどにもなりました。

ニューヨーク市にあるマンハッタン・チルドレンズ・ミュージアム

チルドレンズ・ミュージアムでは、大きな遊具や体を思い切り動かせるスペースがあったり、科学実験ができるコーナーがあったり、環境問題について考えさせたり、と体験テーマが多種多様にあり、どれも「なぜだろう」「やってみよう」を駆り立てる見せ方が特徴的でした。また多くが地域のボランティアによって支援されていることや親子無料デーなどがあることなどから、地域にとって重要な役割を果たしている施設だということがわかりました。

さらに、チルドレンズ・ミュージアムでの教育プログラム(講座やワークショップ)は、障がいや性別、国籍やその他さまざまな背景によって分け隔てられることなく、誰でも参加できることが当たり前でした。まさに「誰一人取り残されない学び」がそこにあり、多様な人がともに生きるアメリカの「当たり前」を知る機会にもなりました。

自由に遊ぶスペースにも子どもの興味関心を引き出すしかけがたくさんあります。

ミュージアムエデュケーターによるワークショップが頻繁に開かれています。

子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています。

生物学者のレイチェル・カーソンは著書『センス・オブ・ワンダー』の中でこんな言葉を述べています。「ワンダー(ワクワク、ドキドキ、なぜだろう、やってみよう)」は子どもたちが主体的に学ぶ動機づけになるもので、そしてそれは自分の身近なところにあるものなのでしょう。大人(教師)は子どもたちが自らワンダーを発見できるようなきっかけをつくる「デザイナー」でなければならないと気づかされます。

私がチルドレンズ・ミュージアムを巡った当時は、スマホもSNSもない時代でした。あれから年月が経ち、子どもを取り巻く環境も時代とともに変化しました。私の息子は、生まれた頃からデジタル端末に触れている世代です。また、この2年程は、コロナ禍で行動が制限されるなど子どもたちは予測不能な時代を生きています。それでも、息子を見ていると、身近なところにあるワクワクドキドキを見つけては、自分の世界を日々広げています。どのような状況でも、自身の「ワンダー」を探究できる子どもの可能性は無限なんだ、という姿を大人(親)に見せてくれています。

いつか、今度は息子と一緒に、チルドレンズ・ミュージアムを再訪したいです。令和の時代を生きる息子は、そこでどんなワンダーの扉をひらくのでしょう。

新潟県立自然科学館にて放電の光に夢中な息子。県内にも、子どもが体験しながら学べるスポットはいろいろありますね♪

(参考)*ブルックリン・チルドレンズ・ミュージアム 公式HP

 

この記事のWRITER

関 愛(長岡市在住/にいがたNGOネットワーク国際教育研究会RING企画副委員長)

関 愛(長岡市在住/にいがたNGOネットワーク国際教育研究会RING企画副委員長)

高校教員時代に、日本国際協力機構(JICA)による教師海外研修に参加し、ブータン王国へ。その後も、国内や海外へ飛び回りながら知見を広げ、国際理解教育/開発教育の実践力向上を図ってきた。現在は、新潟県キャリア教育連携促進事業(出前講座)や総合学習コーディネーター等を通じて、学校の「外」から教育に関わりながら“持続可能な社会の創り手“を育むべく活動を展開している。旅好きな性格。家庭では、小学生男児の母として、子育てという「人生の旅」を楽しみ中。
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