「母も、ゆりかご学級を受講しました。私も子どもが産まれて、母からの薦めもあり今回申し込みました。ゆりかご学級いいですよね。来年度からこの名前がなくなるって聞きました、寂しいです。」
受講生からこんな声を聞きました。私は子育て支援ファシリテーターとして、「ゆりかご学級」の1回目と最終回に親たちの話し合いのファシリテーターとして入ることが多いです。その時に聞いた言葉でした。
「ゆりかご学級」とは、新潟市の公民館で行われている「乳児期家庭教育学級」です。新潟市のホームページには「乳児(0歳児)を持つ保護者を対象とした家庭教育の学習会です。不安や悩みはみんな同じ。親としてのあり方や子育てについて、いっしょに学びあい、話し合ってみませんか?」と書かれています。募集の月齢が区によって違いますが、自分の住んでいる区の実施が子どもの月齢と合わなければ、他の区の公民館でも受講できます。市内の各公民館で、ほぼ同じプログラムで実施されています。

ワークショップ
「ゆりかご学級」について調べてみると昭和50年(1975年)に「集団学習」である乳児を持つ親の家庭教育学級が「ゆりかご学級」としてスタート、およそ50年間続いている講座でした。内容は時代に合わせて少しずつ変化していますが、名称は使われ続けてきました。その50年もの間続いていた「ゆりかご学級」の名称が来年度から無くなるというのです。でも、名称は使わないけれど「乳児期家庭教育学級」という事業は継続実施するというのでホッとしました。
今の時代、情報はSNSなどから得られるし、健康福祉課でも子育てを支援するシステムがあるのだから公民館でやらなくても良いのではないかという意見もありますが、公民館でやるからこその意味はあると思います。
公民館は、地域づくり、絆づくりの拠点でもあると認識しています。つまり、公民館で子育て支援の講座をやるということは、子育ちを地域の人々で支えながら、人と人とのつながりや相互の協力関係を作り、助け合う関係性を作ることに繋がっていくのだと思うのです。
私は、子どもが産まれるまで自分の住んでいる地域をあまり意識しませんでした。家がそこにあって、仕事に行って帰ってくる場所でした。しかし、子どもが産まれると、子どもを通して人との関わりが増え、幼稚園や学校などを見据えたときに地域との関わりがないと子育てできないと意識が変わりました。
それと、子育て支援に長年関わってきましたが、親のメンタル面の支えとなるのは、やっぱり身近にいる人々、仲間だと思います。初めての子育ては不安の塊の中で行われています。はじめてさわる赤ちゃんという存在。家の中で一人で育児をしていると、社会から取り残されているような孤独感。産後でホルモンが不安定になっている時でもあり、今まで持ったことのない感情が襲ってきます。こんな時、外に出る機会として「ゆりかご学級」があり、講座に参加して子育ての仲間が出来ると、子育ての大変さが和らぐことを講座をやりながら感じます。

困りごと
以前は、「母親だから」というジェンダーの縛りの中で、「母親になったのだから子育てが出来て当たり前、どうして私は思うようにいかないのか」という悩みが多かったです。最近はSNSで楽しそうに育児をしている様子が映し出される中、「どうして私は辛いのだろう、みんな楽しくおしゃれに子育てしているのに」と思うようです。でも、講座に参加した後の感想は「悩んでいるのは私だけじゃなかった」「同じことで悩んでいる人がいて、話ができて安心した」等が聞かれます。それを見ると人と会って話すことは大事な事なのだと感じます。

ワークショップ
リアルな人間関係が希薄になっていると感じる現代だからこそ、人を産み育てるリアルには、ゆりかご学級のように実際に人が集まって、繋がる場がより必要なのではないでしょうか。一緒に講座を受講していなくても「ゆりかご学級、受けた?どこで受けた?」などと仲間づくりのきっかけにもなっていました。時や場所が違っても、同じ講座を受けたという仲間意識が、親たちを繋ぐ一つになっているのかもしれないです。
名称が50年続いたという事もすごいけれど、何よりすごいのは母子分離で学習するという事をその時にスタートしたという事です。母親が子どもを預けて勉強するなんて、多分最初の頃は世間からの理解が得られない中、参加した親たちの保育の必要性を感じた担当者が踏み切ったのだろうと思います。講座室にゴザを敷いて始まった保育から、昭和55年(1980年)に中央公民館に初めて保育室ができました。保育ボランティアが保育をしていましたが、平成3年(1991年)「女性センター開設」で保育ボランティアは有償の「保育者」へと変わりました。余談ですが、私はその時の保育者1期生で養成講座を受講して保育者として活動していました。
保育室に初めて子どもをお願いするときに、不安だったり、泣いている子どもを置いていく切ない感情を持ったりしますが、保育室には養成講座を受けたベテラン保育者さんがいますので安心して学習できます。それと、子どもは子ども同士で刺激しあったり、親以外にも自分を守ってくれる人がいることだったりを学習します。親たちは、誰かに子どもを預けるという体験もします。2時間母子分離で学習して保育室に子どもを迎えに行った時、我が子の可愛さを格別に感じます。
毎日毎日、自分のことを後回しにして子どものお世話に追われ、何をしても泣き止まない子どもと一緒に泣きながら、我が子をどうしていいか分からなくなり、その場から立ち去りたくなる時もあります。でも、母子分離の講座では、毎日言葉が返ってこない赤ちゃんに話しかけていたのに、大人と会話ができたり、自分の事を客観的に見ることができたりします。講座を終えて迎えに行った時の我が子を愛おしく思う感情や、「ゆりかご学級」で出会った仲間と「子育て大変だよね」を共有し、頑張っているのは自分だけじゃないと分かるとまた頑張ろうと思います。
子育ては温もりが大事だと思うのです。こどもを抱っこしたときの温もり、「お母さん、お父さん、子育てがんばっているね」って抱きしめられた時の温もり、保育室で抱っこしてくれる親以外の人の温もり、肌で感じられる温もりが子育てのエネルギーになると思うのです。
母子分離の「ゆりかご学級(乳児期家庭教育学級)」新潟市の大事な子育て支援として、続いてほしいと願っています。
* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。3月22日は、新潟市在住 にいがた子育ちステイション理事長 /子育て支援ファシリテーターの立松有美さんです。お楽しみに!