毎年発表されるノーベル賞。ノーベル賞とはスエーデンの発明家 アルフレッド・ノーベルの遺言に基づき、いろいろな分野で「人類に最大の貢献をもたらした人々」に贈られる賞です。
この賞の生理学・医学の部門で今年度受賞したのが、アメリカ ペンシルベニア大学のカタリン・カリコ特任教授とドリュー・ワイスマン教授でした。
おふたりは2019年末に発生した新型コロナの感染や重症化を抑えるメッセンジャー(m)RNAワクチンの開発につながる研究が評価されて受賞しました。ノーベル賞の長い歴史の中で、数少ない女性受賞者となったカリコ博士について最近伝記が出版されたのでご紹介します。
『カタリン・カリコの物語 ぜったいにあきらめないmRNAワクチンの科学者』
デビー・ダディ/文 ジュリアナ・オークリー/絵 竹内 薫/訳 山内 豊明/医学監修
西村書店
こちらの本は彼女の幼少期から現在に至るまでの痕跡を綴った伝記絵本です。
ハンガリーで生まれ育った彼女は顕微鏡で見た細胞が集まって自分の体を作っていることを学び驚きます。そして、この細胞や細胞を研究している科学者について知りたいと思うのでした。このことをきっかけに彼女は科学者になりたいと思い、挑戦が始まります。好奇心と努力で科学の道を突き進み、大学院を卒業して博士になるのです。
その後は今回の受賞につながる研究を始めるのですが、そう簡単には研究結果を発表することができませんでした。また周りの科学者にすら理解してもらえないこともしばしば…。拠点をハンガリーからアメリカに移してからも苦労の連続。その上女性ということで協力を得られないこともあったようです。
しかし彼女はあきらめませんでした。
長い年月はかかりましたが、素晴らしい研究者と共に彼女が思い描いていた、私たちの健康を守るためのものを発見し発表したのでした。カリコ博士の努力と絶対にあきらめないという強い気持ちが、40年という長い時間、心の支えになったのだと思いました。
カリコ博士の伝記は読み物でも出版されています。
『カタリン・カリコ mRNAワクチンを生んだ科学者』(ポプラ社)です。
『カタリン・カリコ mRNAワクチンを生んだ科学者』
増田 ユリヤ/著
ポプラ社
こちらの本の最後に著者である増田ユリヤさんと博士の交流が書かれています。科学者という難しい仕事をしている方の違った一面を知られるような気がする後書きでした。伝記絵本とあわせてぜひ読んでみてほしいです。
またmRNAについては小学校図書館や公共図書館に寄贈されている『mRNAのひみつ』(学研 まんがでよくわかるシリーズ199)を読むとどのようなものなのかが少し分かると思います。こちらは書店では購入できないので、ぜひ図書館で探して読んでみてください。
「あきらめないで好きなことを続ける」ということを考えてもらいたく、カリコ博士の伝記を紹介しましたが、もう一冊は物語を読んであきらめないということを考えてみたいと思います。
『すし屋のすてきな春原さん』(ポプラ社)です。
『おはなしSDGs ジェンダー平等を実現しよう すし屋のすてきな春原さん』
戸森 しるこ/作 しんや ゆう子/絵
ポプラ社
小学生の伝くんと今は別々に暮らしているお父さんが出会う春原(すのはら)さんというすし職人のお話です。
すし職人と聞くと勝手に男性を思い浮かべてしまいますが、この物語に登場する職人さんは女性です。そんな男性が多い職、それも専門職に就いている女性を通して仕事における男女格差の問題などが子どもにも分かるように描かれています。
きっと実在する女性すし職人の方々もいろいろな苦労や努力とあきらめない気持ちがあったのではないかと考えました。寿司という日本の食文化とジェンダーの問題、そして働くということを考えるきっかけになる良い物語だと思えました。
今回は科学者と寿司職人という一見全く違ったジャンルの職種に思える仕事を話題にしながら、共通する問題や彼女たちの思いが本を通じて読者の皆さんに伝わることを願い、紹介しました。
今月は勤労感謝の日の祝日もあったので、みんなで働く(仕事)という事についても考えてみてもいいかもしれませんね。
* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
11月25日は、絵本でSDGs推進協会代表の朝日仁美さんです。お楽しみに!