「今朝、目が覚めたとき あなたは今日という日にわくわくしましたか? 今夜、眠るとき あなたは今日という日にとっくりと 満足できそうですか? 今いるところが、こよなく大切だと思いますか? すぐに『はい、もちろん』と いえなかったあなたに このメールを贈ります。これを読んだら まわりがすこし違って見えるかもしれません」
これは、『世界がもし100人の村だったら』(以下、『100人村』)という本の冒頭です。私が初めてこの本を手にとったのは、今から、約20年前でした。「世界を変える力になりたい」という気持ちで「国際教育」に携わってきた私の原点ともいえる本です。
物語は、世界人口を「100人」に縮小し、男女比や大陸間人口比、富の分配率などの人類統計比率を示しながら描かれています。縮小された全体図から世界を見ることで、地球上にある格差や不平等をわかりやすく理解できます。
興味深いことに、はじまりはどこかの誰かが書いた小さなエッセイだったこの物語は、インターネットというボーダレスな海をサーフィンしながら世界中を駆け巡り、どんどんと別の「誰か」によって言葉が書き足されていき、一つの大きなメッセージとして結実したとされています。さらに、このメッセージへの世界的な関心や波及スピードは、「9.11」を機に加速しました。多発テロという世界に衝撃を与えた出来事をきっかけに、より多くの人々が「当たり前」を見直し、自分たちの未来へ「危機感」をもちはじめたのではないか、と私は捉えています。けれども、私自身がもつ「世界を変えたい」と思う気持ちは、当時はまだ「貧困や格差で苦しむ”外国”のために」というようなもので、世界で起こっていることは日本人の私にはどこか遠いことでしかなく、「100人村の一員として」という意識は乏しかったようにふりかえります。
『100人村』の発刊から20年以上が経ちました。世界はどのように変化してきたでしょうか。チェーンメールとして『100人村』のメッセージが流されていた時代と比べると、今日では技術革新や情報化はずっと進み、さらに世界が身近に感じられるようになりました。私が持っている『100人村』の初版では、「世界には63億人の人がいますが」から本文が始まっていますが、驚くことに世界人口は今、80億人を超えています(世界人口白書2023より)。人口増加が加速する一方で、気候危機や資源の枯渇が進み、貧困や飢餓の問題は深刻です。コロナパンデミックによって、世界の格差はより広がったとも言われています。20年前に人びとが抱えていた「心配」や「不安」は、改善されるどころか悪化しているような感覚すらもちます。それらの懸念や課題は日本社会においても同様にあります。
SDGsは私たちの未来に警笛を鳴らし、私たち一人一人が「誰ひとり取り残さない」社会をつくるために行動を起こす必要があることを「目標」として示しています。かつては、グローバルな問題を「遠い国のこと」と思っていた私も、私たちの生活に直結した問題であることに気づき、「自分のこと」として捉え、生活の中の価値観や行動を見直すようになりました。今日書いているこのコラムも、「伝える」という大事な行動だと思っています。
現在私は、一人一人が「100人村−地球という一つの村」の一員として、自分たちの「村」の未来を守るために何ができるかを考え、できることから行動していく力(地球市民性、グローバル・シティズンシップ)を育みたいという思いで国際教育に携わっています。この夏は、地球市民教育(グローバル・シティズンシップ教育)に広がりをみせる韓国で日韓の教員がともに学び合う研修に参加してきます。次回のコラムでは、韓国での学びをお伝えしたいと思いますので、引き続き読んでいただけますとうれしいです。
* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
8月5日は、にいがたNGOネットワーク国際教育研究会RING企画副委員長の関 愛さんです。お楽しみに!