SDGs de はぐくむコラム

ドライブ・マイ・カー

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僕と車の出会いは割と遅い。20歳の時に免許は取ったが、初めての車を購入したのは30歳を過ぎてからだった。子どもの頃、父がバイクの免許しか持っていなかったので、移動はほとんどバイク。子どもの頃から父の後ろにつかまってバイクでよく出かけた。高校生になってバイクの免許を取ってからは、自分のバイク。友人たちと近場であってもバイクで移動していた。土日など時間に余裕があると、どこかに行きたくて、ただ漠然と一人でよくバイクで出かけた。それまで上越しか知らなかった僕は柏崎や長岡など知らない街に行くだけでワクワクした。そんななんでもない移動が好きだった。

東京でも最初に買ったのはバイクだった。電車では数回乗りかえていくような場所でも、バイクでなら、割とすんなり行けた。終電も気にせず出かけられたし、当時借りたばかりの初めての仕事場(アトリエ)でも、帰りの時間を気にせず制作に集中できたことは良かった。

そんな僕が、いよいよ車を購入しようと思い立ったのは、長女が生まれてしばらくたった頃。一人で出かけるのにバイクは良かったが、生まれたばかりの子供をつれて妻と3人では出かけられない。そろそろ車が必要だなと感じた。

当時、デザインに関わる仕事の仲間は、「ミニクーパー」や「アルファロメオ」また、ジウジアーロがデザインしたとかで「ワーゲンゴルフ」など、皆こだわりの輸入車に乗っていた。まるで所有物が自分のセンスかのような空気にのまれて、今思えば少し恥ずかしいが、僕も自分なりのこだわりの一台を探した。

あまりまわりに同じ車種に乗っている仲間がいなかったことと、エンブレムのマークが気に入って紺色のプジョー306を中古で購入した。それまでバイクで移動していたので、キビキビとした敏感な反応や加速も選んだ理由だった。

すぐにチャイルドシートも購入し、仕事に余裕がある時には、買い物で大きなショッピングモールや少し遠くの公園などよく出かけた。

夫婦初めての子育てのちょっとした気分転換に、ドライブは役立った。

ただ、都内での運転に慣れるまで、それなりに時間がかかった。渋滞ポイントもよくわからず、なんでもない距離に長時間かかったこともあったし、抜け道だと入った細い路地が一方通行で結局元の道に戻ったりすることもあった。

そんな時、まだ赤ん坊の娘が車内で、ぐずってしまうと大変だ。だけど車に乗せると、娘は割とすんなり眠った。程よい車の振動がよかったのか理由はわからなかったが、これには助けられた。

ある日、自宅で娘が泣やまず、ぐずぐずした時、ダメ元で車に乗せて走り出すと、大人しく泣き止み、すやすや眠りだした。それから僕は何度か娘が泣き出すと車に乗せて近くをドライブした。帰宅ラッシュも終わった夜の時間帯だと、ちょっと近くのドラッグストアまでのつもりが、なんとなく1時間くらいの気持ちのいいドライブになったことも度々あった。後ろで娘がすやすや寝始めると、それは僕にとっては、2人だけの特別な時間だった。

車で移動するようになって、お盆やお正月以外でも、東京からドライブで上越まで来ることが増えた。春のこの時期にもよく来た。高田城址公園のお花見は東京とは違った独特の雰囲気があっていい。花を見るだけではなく、様々な屋台が集まり、活気ある様子は、花の開花を喜ぶだけでなく、雪の季節から解き放たれた開放感にも溢れ、幸福感を強く感じる。幼い頃からその空間を体験している僕は、子どもたちにもそれをぜひ体験させたかった。

今年もそろそろお花見の季節。高田城址公園のお花見は、まだ感染状況をみながらの開催で、コロナ前のようにはいかないとは思うが、県内各地からドライブに上越などいかがだろうか。目的地だけでなく、マイカーでの移動時間もきっとなにか思い出に残るのではないかと思う。

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」お伝えしています。
3月26日は、大塚いちおさん のお話をお楽しみください。

この記事のWRITER

大塚いちお  (東京都在住 イラストレーター・アートディレクター )

大塚いちお  (東京都在住 イラストレーター・アートディレクター )

1968年上越市生まれ。イラストレーター・アートディレクターとして、テレビ、CMなどのイラスト・デザインを手掛ける。子ども番組「みいつけた!」(NHKEテレ)アートディレクションを担当。連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK)タイトルバックイラストなど。子ども向けのワークショップも多数開催。2005年に東京ADC賞受賞。東京造形大学特任教授。
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