はぐくむコラム

描くことの楽しさとは

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コロナウィルスの影響で、今年はまだ一度も開催できていないが、年に何度か全国さまざまな所で、子どもや親子を対象にしたワークショップを開催している。ただ自由に描くだけではなく、子ども達には、何かを想像したり、少しの工夫をしてもらったりしている。絵を描くことがより楽しくなるきっかけを提供できたらと思いを込めている。

よく参加したお父さんやお母さんから「いちおさんは、小さな頃から絵が好きでしたか?」と質問されることがある。

幼少期に家でも幼稚園でも好きで絵を描いていたことは覚えている。でも、ほかの子と比べて特別すごく描いていたかどうかは、はっきりと覚えていない。父が大工だったので、木の切れはしなどを積木のようにして遊んでいた記憶はなんとなくある。居間の柱に落書きや所々にドリルの穴のようなものがあって、両親は僕がやったと言うが、それもほとんど覚えていない。だけど、そんなエピソードからもおそらく絵や工作が嫌いではなかったことは確かだ。

その後、小学生になって、4年生か5年生の頃だったと思うが、写生の授業で近くの神社に行ったことがあった。ほかの子たちは、神社の鳥居や建物などがきちんと見える場所を確保して描き始めるのに対し、僕はなぜか木の前に陣取って描き始めた。木の前と言っても、その木の全体が見えるような位置ではなく、本当に木の前…、葉と幹しか見えない位置で描き始めた。小学生特有のちょっと変わったことをしたい、そんな気持ちからだったのか、もしくはその木に導かれるように何かを感じてだったのか、分からない。ただ、その木の間近に座り、絵を描き始めた。当然そこから見えるのは幹と葉だけ。画用紙にも茶色の幹と緑の葉だけになった。だけど、その幹の表面の細かな凹凸や、一枚一枚の葉の色の微妙なニュアンスの違いを描こうと努力した。いろいろな色の絵具を混ぜ合わせ、それらをきちんと表現したいと夢中になって描いた。小学生のつたなさも手伝い、その絵はもはや風景の絵ではなく抽象絵画のようになってしまうのだが、その絵を当時の図画工作の先生はすごく褒めてくれた。よく観察している、色やタッチの違いがうまく出ていると言ってくれたのだ。

好きなことを褒めてもらえたら、それで満足してやめてしまうか、調子に乗って続けるかのどちらかだろう。僕は調子に乗ってさらに進める方だった。その後も同じように人とは違った視点を探し、人とは違った絵具の使い方で絵を描いた。すごく褒めてはもらえたが、先生自身がその絵の上下がわからず、逆さまに展示しようとしたこともあったくらい。いわゆる一般的な上手な絵とは違っていた。

だからと言って、このコラムの読者のお父さんお母さんに、「絶対子どもの絵を褒めてあげた方がいい」と言いたいかと言われると、そこは判断が難しい。今の子どもたちは、おそらく僕らの頃よりなんでもやりたいことがいっぱいあって、そしてそれがある程度、簡単にできてしまう。そんな今のような世の中になってくると、ちょっと手をつけては褒められ満足し、さぁ次は別のことをと、時には子どもたちが何に対してもそれほど夢中になれなかったりする。そんな場面を目にすると、それはそれでかわいそうだと思ってしまう。まぁ、だからと言って何を描いてもダメだししてしまっては、好きになれたかもしれないことも嫌いになってしまうだろう。

僕は絵を描くことが好きな子どものお父さんお母さんには、とにかくたくさん、子どもたちに絵を描かせることを勧めている。

落書きでも絵画でも漫画であっても、絵は枚数を多く描けば、進歩の違いはあっても確実にうまくなる。ノートでもチラシの裏でも、描いたものをそのまましばらく取っておけば、ふりかえった時に、「こんなに描いたんだ」と自信にもなる。一所懸命描いた絵が褒められることと同じように、描いた絵の枚数を褒められると、もしかしたら、絵を描くことをその後も楽しんでくれるかもしれない。

親として大事なのは、子どもときちんとコミュニケーションをとりながら、描くということの楽しさを一緒に探していくことなのかもしれない。

 

たくさんの絵といえば、実はこの夏、上越での展覧会のために一つのテーマでたくさんの絵を描いた。想像のなかの故郷というテーマで具体的な風景ではなく、想像でたくさんの風景を描いた。そんなたくさんの絵が集まったら、なんとなく新潟や上越を感じさせる風景の要素が滲み出てくるのではないかという試みだ。その中には時々、上越おでむかえキャラクターのウェルモも登場する。想像上の故郷の風景には欠かせない生き物だ。実際にはいないとわかっていても、見たらみんながなんとなく笑顔になってくれる。この時期にそんな展覧会の開催になれば、とても嬉しい。

 

大塚いちお個展『imaginary hometown 想像のなかの故郷』

‪2020年10月10日(土)〜18日(日)

【メイン会場】大島画廊 雅房眞泉店内

時間:10:00〜17:00 (14日は定休)

住所:新潟県上越市本町3-1-11

問い合わせ:025-524-2231

【サテライト会場】「DIGMOG COFFEE」

時間:11:00〜17:00 (14日は定休)営業日時は変更の可能性があります。

住所:新潟県上越市仲町4−3−14 (近隣駐車場をご利用ください)

 

BSNラジオ「大杉りさのRcafe」では10月10日(土)午前9時台に大塚いちおさんに「描くことの楽しさとは」についてお話を伺います。どうぞ、お楽しみに!

 

この記事のWRITER

大塚いちお  (東京都在住 イラストレーター・アートディレクター )

大塚いちお  (東京都在住 イラストレーター・アートディレクター )

1968年上越市生まれ。イラストレーター・アートディレクターとして、テレビ、CMなどのイラスト・デザインを手掛ける。子ども番組「みいつけた!」(NHKEテレ)アートディレクションを担当。連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK)タイトルバックイラストなど。子ども向けのワークショップも多数開催。2005年に東京ADC賞受賞。東京造形大学特任教授。
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