僕がデザインした「イス」のキャラクター「コッシー」の好きな食べ物といえば、もちろん「ライス」(「イス」なので)。時々、座面におにぎりを乗せて嬉しそうな様子のコッシーは、とても可愛い。
そういう僕も、学生時代、友だちからの「好きな食べ物はなに?」という質問に、よく「ごはん」と答えていた。ハンバーグや生姜焼き、とんかつに餃子、好きなおかずのことを考えだすと、その横には必ずご飯がいた。おかずの中の1番を考えていたはずなのに、やがてそのおかずでどれだけご飯が美味しく食べられるかに変わっていた。
「あれ、待てよ、これもう、むしろ好きなのはご飯では?」
そう考えるようになってからは、「好きな食べ物」質問の時にはもう決まって「ご飯」と答えるようになった。
東京に上京してからは、その「好きな食べ物は?」の質問にピザやパスタなんて答えるオシャレな友人も現れる。それでも僕は笑顔で「ご飯」と答えていた。福岡出身の友人が「とんこつラーメン」と言った時の周りのリアクションと同じように、その地方独特の好みだと、仲間内からは「やっぱ新潟県人!」とか「お米の国の人だねー」などと言われた。お米は日本の誰でも好きなはずなのにと、心の中では思っていた。
小学生の頃まで記憶をさかのぼると、学校の遠足には、大きなおにぎりを持って行った。母親が作った自家製の酸っぱい梅干し入りの大きなおにぎりが2個。あとは焼いたスルメやシャケと、甘くない卵焼きだった。それらをアルミホイルでぐるぐると包んだものが、僕のお弁当だった。お弁当箱はなく、食べたら丸くまとめて簡単に持って帰れるといった父の発想だった。休憩の時にはその丸めたアルミホイルで休憩時間に友だちとキャッチボールなどして遊んでいた。
中学生なるとお弁当の日が増え、高校生になると完全に毎日お弁当だ。もうアルミホイルではなく、大工の父のおさがりのアルマイト製のシンプルなお弁当箱を僕は使っていた。朝、母が詰めてくれたのは、ご飯に梅干しと、昨夜の残りの煮物や魚、そしてここでも焼いたスルメや上越名物のスルメの天ぷらだった。思い返すとスルメはかなりレギュラーメンバーだったし、おそらくそんな組み合わせが当時から好きだったのだろう。
ある日、クラスメイトから「お前の弁当、茶色だな」と言われて、初めてお弁当にも彩りがあるということを知った。そこから僕は、毎朝お弁当を自分で盛り付けるようになった。選ぶおかずもウインナーや唐揚げなど、人目を意識したものになったし、そんなものを母にリクエストしていた。今でもその頃を思い出すと、母が用意していた茶色のお弁当にまるでダメ出しをしてしまったようで、母に対する多少の罪悪感で、胸の奥がギュッと痛む。
先日のことだが、長岡で行われた「米百俵フェス」に行ってきた。なんと今年は「みいつけた!」からオフロスキーも参加してステージを盛り上げた。コッシーやサボさんは参加できなかったが、ライスが好きなコッシーはとても残念がっていたことだろう。会場ではもちろん、おにぎりを食べた。やはり美味しく、こんな美味しいお米を作っている新潟の出身であることを誇りに思った。「お米の国の人でよかったー」である。
そんなご飯好きの僕もこの頃は年齢とともに、食べるご飯の量が減ってきた。夕食時に晩酌が進むとご飯はなし、なんて日も増えている。地元の上越に滞在中は、美味しいお魚と日本酒でついつい晩酌が進み、「もうご飯はいいかな」なんて日もある。すっかり、日本酒がお米の代わりになってしまった。ただ、日本酒も元々はお米。そう、子供の頃の好きなおかずとご飯のカップリングが、大人になっておつまみと日本酒になっただけだ。
今「好きな食べ物はなに?」という質問をされたら、もしかしたらその答えは食べ物ではないが「日本酒」かもしれない…。
* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
6月14日は、「ハレッタ」のキャラクターデザインを手がけた、イラストレーターでアートディレクターの大塚いちおさんです。お楽しみに!