はぐくむコラム

子育て ヒトと動物の違い

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小児科医になって、40年近くになりました。この間に、小児科医から見た「家族」や「子育ての様子」、そして「子どもの心身の健康状態」は随分変化してきました。このコラムを通して、一小児科医から見た、今の子どもの心身の健康や子育てのことで感じていることや気になっていることなどを紹介させていただきたいと思っています。よろしくお願いします。

まずは、「子育てにおける大きな変化」についてお話しします。現代は核家族化が進み、祖父母や親戚とも離れて暮らすようになりました。その祖父母世代も働く人が多くなり、孫の面倒を見てもらうことは難しいのかもしれません。そもそも、現代社会は人間関係が疎遠になり、昔は存在していた地縁・血縁の様々な人による「若い子育て世代」を包み込む力が衰退し、社会全体での子育て世帯に対する包容力が失われつつあります。現代社会は急速に人と人とのつながりが薄れてきて、人とのつながりの代わりに”貨幣”が介在するようになり、何をするにもお金が必要となっています。保育園や教育など子育てに必要な資源を利用するには多くのお金が必要となっており、子育て中の若い世帯にとって、現代社会で子どもを育てることは経済的にも大変厳しい状況にあります。昔に比べると、現代の子育ては難易度が非常に上がっているのです。

もともとの人間の子育ては、多くの人の集団の中での共同作業が必要不可欠だったのです。ほかの動物と比べて、ヒトの最大のからだの特徴は脳が大きいことで、大きい脳を育てるには多くの時間とエネルギーを必要とします。ではなぜ、大きな脳がヒトに必要となったのかというと、進化生物学的には次のように考えられています。250万年前に人類はサバンナに進出しましたが、そこは食物を獲得するのが困難な環境であり、多くの肉食獣がいて餌食にならないように身を守る必要がありました。捕食動物から身を守るための集団の形成と、多くの共同作業を必要とする高度な食糧獲得技術とが欠かせず、そのためには協力的な知能を持たなければならないので、より大きな脳が必要となったと考えられています。

その結果、ほかの動物と比べて子育ては大変な作業となり、親だけで育てるのは困難…。血縁者、非血縁者を問わず、多くの周囲の大人たちによる共同保育が不可避となりました。ヒトの生計活動そのものが共同作業を前提に成り立っており、子育ても同様だったのです。その証拠に、チンパンジーなどの類人猿の子どもはほとんど泣かないのに、ヒトの子どもは大声でよく泣きます。どうしてヒトの子どもはよく泣くのかのというと、ヒトは共同繁殖の生き物であり、子どもからの発信に対して、集団の中の誰かが入れ替わり立ち替わり必ず関わってきたからだと考えられています。

ヒトは、母親一人で子育てすることなど土台無理で、太古の昔から共同繁殖をしてきた動物であることを認識し、近代化とともに失ってきた共同繁殖の形態の代わりとなる社会的な子育て支援の新たなネットワークを作っていくことが、何よりも私たちの社会に今求められています。

次回からは、より具体的に感じている事、思っていることをご紹介していきます。

BSNラジオ「大杉りさのRcafe」6月15日(土)放送予定

この記事のWRITER

田中篤(長岡市在住 長岡赤十字病院小児科部長)

田中篤(長岡市在住 長岡赤十字病院小児科部長)

1954年長岡市生まれ。千葉大学医学部卒業、新潟大学医学部小児科学教室に入局。以降、県内各地の小児科に勤務し、小児疾患全般のほか、小児心身症・不登校・子ども虐待・災害時の子どものこころのケアなどの診療に従事。現在:長岡赤十字病院小児科部長 新潟大学医歯学総合病院特任教授、新潟県医師会理事を兼任。
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