はぐくむコラム

ITを使った過去との対話

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先月、「くずし字」の翻訳ツールOCR(光学的文字認識)「KuroNet」の開発が発表されました。くずし字というのは、古文書で使われている筆記体の文字のこと。博物館などでは、オリジナルの文書とともに、現代の文字に書きなおしたものとその翻訳が一緒に展示されています。日本史などの専門的な訓練を受けた人を除き、現代人のほとんどは、これらの文字を読むことができないといいます。私もくずし字は読めないのですが、今回発表されたKuroNetを使えば、江戸期以前の人々が、どんなことを書状に書き記していたかを自ら読むことできるといい、大いに興味が湧くところです。

敬和学園大学の私のゼミでは、数年にわたり、デジタル編集による映像の制作をしています。新潟で取材可能なさまざまなテーマを扱いますが、調べていくと必ず、歴史のことを扱うことになります。開港150年を迎えた新潟港の歴史をたどっても、大学のある新発田の歴史を見ていっても、必ず「戊辰戦争」のことを調べることになります。昭和以降の新潟を調べていても、「戦争」のことは避けられません。しかし戦後70年を超え、「戦争」の実体験を語れる人も次第に少なくなりました。同時に学生たちにとっては、七十数年前の出来事はあまりに遠い「昔話」になってきています。私のゼミでは、あの手この手で学生たちに興味を持たせて勉強してもらい、戦争経験者の言葉や専門家へのインタビューを行って、どうにか映像を作ろうとしています。

白黒写真や白黒映像に残った映像を、AIを使ってカラー化する取り組みが、最近出てきました。東京大学の渡邉英徳研究室は、原爆投下前の広島や地上戦が行わる前の沖縄で撮られた写真を色付けし、公開するとともに、ARアプリの中でマッピングしています。

(外部リンク:「記憶の解凍」ARアプリ

https://wtnv-lab.github.io/rebootingMemories/index_jp.html

広島の平和記念公園を歩いて、今の原爆ドームを見るだけでなく、その場所で営まれていた人々の暮らしを、カラー化された写真で眺めることで、今を生きる私達も当時の人々の存在をよりリアルに感じられるようになります。このプロジェクトは、白黒写真の中に凍結されていた記憶を「解凍」するという意味で「記憶の解凍」と名付けられています。

写真だけでなく、白黒映像のカラー化技術も進んでおり、テレビ番組などで利用されるようになってきています。

個人で”白黒映像”をカラー化するのはまだ難しいのですが、実は”白黒写真”であれば、個人でも割と簡単にカラー化できるようになっています。筑波大学のウェブサイトで公開されている、飯塚里志・シモセラ エドガー・石川博 「ディープネットワークを用いた大域特徴と局所特徴の学習による白黒写真の自動色付け」では、個人利用可能な、AIによる写真の色付けツールが公開されています。

(外部リンク:Automatic Image Colorization・白黒画像の自動色付け http://iizuka.cs.tsukuba.ac.jp/projects/colorization/web/)

私も父親の古いアルバムから、祖母や親戚の古い写真を借りてきて色づけしてみました。この写真が撮られた当時、小さい子どもを育てる「母親」だった祖母のことを、孫の私は全く知らないわけですが、こうやって写真をカラー化することにより、その当時の祖母の姿が生き生きと蘇り、「おばあちゃん」として接していた祖母との連続性をリアルに感じることができます。さらにそのことを、自分の子どもにもよりリアルに伝えられるように思います。

新しい技術が登場し、それに追いつくことに必死な私達ですが、その技術は一方で、過去との対話をより豊かなものにしようとしています。いずれ古い白黒映像もまた、容易にカラー化できるようになるでしょう。過去の記憶が次の世代に生々しく承継されることは、いいことばかりでもないでしょうが、可能性は広がってきています。「ママのママのママのママ」という歌のように、祖先とのつながりに家族で興味を持つようになった時、技術がよい手助けをしてくれるようになってきています。

8月17日(土)BSNラジオ「大杉りさのRcafe」放送予定

この記事のWRITER

一戸信哉(新潟市在住 敬和学園大学人文学部国際文化学科教授)

一戸信哉(新潟市在住 敬和学園大学人文学部国際文化学科教授)

青森県出身。早稲田大学法学部卒業後、(財)国際通信経済研究所で情報通信の未来像を研究。情報メディア論の教鞭を取りながら、サイバー犯罪・ネット社会のいじめ等を研究。学生向けSNSワークショップを展開。サイバー脅威対策協議会会長、いじめ対策等検討会議委員長などを歴任。現在:敬和学園大学人文学部国際文化学科教授。
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