はぐくむコラム

“木育”つながる森のめぐみと子どもたち

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木のおもちゃで遊ぶ、森の中で自然観察をする、暮らしに木を取り入れるなど、小さな頃から木や森に親しみ理解を深めながら、人と木や森との関わりを主体的に考えられる豊かな心を育むことを目指す活動を「木育」と呼びます。地域の木や森を、子育てや教育に活かしていく「木育」の取り組みは、近年では教育的な重要性にとどまらず地域づくりの側面からも大変注目されています。

私が学芸員を務める「森の学校」キョロロは十日町市松之山の里山のど真ん中に位置する小さな自然科学館です。周囲にはブナを主体とした里山の森林が広がっていて、キョロロでも森のめぐみを子育て・教育へとつなげる「木育」に関連した様々な博物館活動を実践しています。今回は、地域の皆さんと一緒にチャレンジした木育の取り組みを少しご紹介したいと思います。

キョロロのお隣にある「美人林」は、すらりとした樹形のブナが高密度で生える美しいブナ林です。四季折々美しい表情を見せ、年間10万人が訪れる県内有数の観光地にもなっています。

美人林の春の様子

美人林はそのブナの過密さゆえに高頻度で枯れ枝が発生しており、ブナの成長を促すため間伐を行うことがあります。当初は間伐したブナのほとんどをチップ化し、散策者が歩く部分を中心に林内に敷き詰めました。しかし、「ウッドチップにするだけではもったいない」「地域のために何か有効活用できないか」という声が上がってきました。そこで、美人林のブナの間伐材を使ったおもちゃを作り、地域に生まれた新生児にプレゼントしようという「森の保全・整備活動」と「子育て支援」をつなげる取り組みがスタートしました。

美人林で行われたブナの間伐

おもちゃのモデルとしたのは旧松之山町の鳥「アカショウビン」です。アカショウビンは松之山のブナ林で「子育て」をする野鳥で、しかも夏鳥のため毎年松之山に渡って(帰って)きます。

アカショウビン(撮影:芦田久)

里山に生まれた子どもたちがアカショウビンのように「里山で健やかに育ち、将来松之山を応援して欲しい」そんな思いがおもちゃとして形になりました。十日町市は「選ばれて住み継がれるまち とおかまち」を地域づくりのスローガンにしています。松之山を「選び住み継いでいる鳥」をモデルにし、地域の願いもしっかりおもちゃに込めることができました。

美人林の間伐材でつくったアカショウビンのプルトーイ

おもちゃは職人さんが一つ一つ手づくりしたプルトーイです。無塗装なので舐めても大丈夫…。お腹に抱えた卵はラトルでやさしい音が鳴ります。紐を引っ張ると羽をパタパタと羽ばたかせる、やさしい表情をした素敵なプルトーイが完成しました。この取り組みは、新潟県初の地域の木材を使った誕生祝品贈呈事業として、地域の願いと地域のストーリーを付加価値とした木育の取り組みとしてスタートしました。現在、松之山に生まれた新生児の皆さんにこのおもちゃをプレゼントしています。

今回ご紹介した取り組みにとどまらず、私たちの地域では地域の森林を「木育」というキーワードで活かしていこうという様々な活動が展開されており、去年、「妻有木育推進協議会」が立ち上がりました。協議会の皆さんと一緒に「森のめぐみ ふれあい木育体験」を実施し、森林整備活動・昆虫ハウスづくり・木のおもちゃ体験・スウェーデントーチの焚火体験など、この地域の森のめぐみに触れ合う体験活動を実施しました。森から木が木材として生産される現場を見学したり、森に暮らす生き物が暮らしやすい環境整備をしたりと、森と人との関わりについて理解を深めることができました。今年も開催予定です。

森のめぐみふれあい木育体験の様子

普段の生活の中で、なかなか木や森を感じる機会は限られていますが、私たちは森からたくさんのめぐみを得て暮らしています。木のおもちゃで遊んでみる、森林浴を楽しんでみる、木の製品を暮らしに取り入れてみるなど、身近なところから木に触れ合う「木育」体験してみませんか?

*5月22日(土)BSNラジオ 朝10時~「立石勇生 SUNNY  SIDE」で放送予定です。

この記事のWRITER

小林誠(十日町市在住 越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員)

小林誠(十日町市在住 越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員)

1980年、長岡市生まれ。北海道大学大学院環境科学院博士後期課程修了(環境科学博士)。大学時代は北海道をフィールドに北限のブナ林を研究。現在、十日町市立里山科学館 越後松之山「森の学校」キョロロ学芸員。里山の生物多様性をキーワードに教育普及、体験交流、観光や産業などの側面から、地域博物館を活用した地域づくりに挑戦中。2児の父親。
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