SDGs de はぐくむコラム

子どもが”大木”のように育つために

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自分の子どもを木に例えると…。
丈夫な大木に育って、どんな雨風にも、台風にも耐えて、のびやかにすくすくと成長していって欲しいと願うのは当然のことでしょう。それでは、大木に育っていくために必要なものとは何でしょうか。栄養分の豊かな大地が必要であることは当然ですが、大地に、地中深く伸びて張っている”根”が必要不可欠です。この根の形成が、人が生まれてから親との間で形成されていく愛着関係に相当します。地中深く広く根を張るということは、子どもが親に遠慮せず、甘えたり、わがままを言ったりして、ありのままの自分を表現して受け止めてもらうことに相当します。

親がいつも疲れていたり、ストレスを抱えてピリピリしていたり、喧嘩が絶えない状況だったりするとどうでしょうか。子どもは、赤ちゃんの時から全身で親の心の状態を感じることのできる超能力者です。親の緊張や不安、イライラを感じてしまい、遠慮してありのままの自分を表現せず、おとなしく良い子を演じてしまいがちになります。心身ともに安定した大人に成長するためには、周囲の安定した大人を遠慮なく振り回す体験が、特に乳幼児期には大切です。

「愛着」とは、主として生後6カ月から2歳くらいまでに形成される特定の存在(愛着対象、主として母親)に対する特別な結びつきのことをいいます。子どもが危険を感じると怖れや不安が生じ、泣いたりしながら、親に駆け寄っていって抱っこしてもらえたりすると(愛着とはアタッチメントの日本語訳で、接近行動、くっつく、くっついてもらうということです)、不安や恐れの感情がなくなって、安心感と安全感を再び手に入れることができます。このような結びつきを日々繰り返していくことによって、子どもと親との間に愛着が形成され、基本的信頼感や基本的安全感を手に入れることができます。つまり、親との間で信頼が形成され、安全が保障されると、その後に出会う様々な人に対しても信頼や安心を持ちやすくなります。そして、愛着がしっかりと形成されると、愛着対象を安全基地として位置付けられ、いつでも帰れる安全な港があると思えば、どんな荒海でも船を漕いで冒険に挑戦できるといったように、外に向けての探索活動や新たな人間関係の形成に熱中することができるようになり、遊びや勉強、社会的活動などに積極的な生き方ができるようになります。すなわち、安定した愛着形成は、すべての人間関係や生き方の基礎となり、精神的安定性や肯定的な生き方、自己肯定感、肯定的な人間観に関与すると考えられます。

スキンシップによって、愛情ホルモンと呼ばれている「オキシトシン」が子どもと親の脳内に分泌され、双方に愛情が伝わり合い、愛着形成が促進することが分かってきています。昔から、三つ子の魂百までと言われてきましたが、乳幼児期の愛着形成が、如何にその後の人生に大きく影響するのかを、小児科医として出会った多くの子どもと親から学んできました。現代は、この愛着形成がとても難しくなっていると感じます。社会全体に安心感や安全感が乏しくなり、地域において子どもと親を包み込む力が衰退しつつあり、親、特に母親に子育ての負担が増してきています。根っこを張ろうとする大切な時期に、大地がゆったりと根っこを張らせる余裕がないように思います。子育て中の家族への社会全体からの物心両面からの温かい支援を必要としています。

忙しい毎日の中でも、時には時間の枠を設定して、30分、あるいは15分でもいいので、そのスペシャルタイムの時間は、明日のことや仕事、お金のことは頭の中から追い出して、身も心も目の前の子どもと一緒にして、楽しい時間を過ごしてください。子どもが喜ぶなら、おんぶに抱っこのスキンシップも、楽しみながらやってみてください。

この記事のWRITER

田中篤(長岡市在住 長岡赤十字病院小児科医)

田中篤(長岡市在住 長岡赤十字病院小児科医)

1954年長岡市生まれ。千葉大学医学部卒業、新潟大学医学部小児科学教室に入局。以降、県内各地の小児科に勤務し、小児疾患全般のほか、小児心身症・不登校・子ども虐待・災害時の子どものこころのケアなどの診療に従事。現在:長岡赤十字病院小児科医。
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