学生たちが中心となって企画運営したキャンプイベント
上越市の釜蓋遺跡公園と上越妙高駅隣接の JM-DAWN を会場にしてキャンプイベントを開催しました。実施には上越市役所、丸互株式会社、NTT 東日本新潟支店、BSN 新潟放送、日本赤十字社新潟県支部、飛田観光株式会社のみなさんからご協力頂きました。当日は透き通るような爽やかな青空の下、学生たちが中心となりながら地域の子どもとたちと一緒にキャンプを楽しみました。
しかし本コラムにて話題に挙げるということは、それがただのキャンプではないということです。何がどう、ただのキャンプではないかというと、今回は“ローカル 5G”を活用した“防災教育”を目的とするオンラインキャンプを開催したのでした。
ローカル5G とは
ローカル 5G とは、地域の企業や自治体等が個別に利用できる超高速、超低遅延、多数同時接続 5G ネットワークのことをいいます。普段私たちが携帯電話を使用する際は、通信事業者による通信サービスを利用します。それに対してローカル 5G は、地域や企業が主体となって、自らの建物内や敷地内といった特定のエリアで自営の 5G ネットワークを構築・運用・利用することができます。このローカル 5G を活用することによって、産業分野では工場ネットワークの無線化やデジタルデータを活用したスマートファクトリーが実現に向かいます。医療や教育の分野でもローカル 5G の長所となる通信品質の安定度、セキュリティ強度、低遅延、電波到達範囲の広さから、更なる展開が期待できます。
上越市と新潟市を繋ぐオンラインキャンプ
このローカル 5G ですが、新潟県内での活用事例が数少ない中、2021 年 5 月に上越妙高駅周辺エリアに新潟県初となる屋内外型ローカル5G ラボ「スマートテレワークタウン・ローカル5G ラボ@上越妙高」の整備事業がスタートしました。これは先端通信技術の社会実装に向けて、とても大きな一歩だったと思います。
現在、私たちの研究室もこの事業に参加させて頂いているのですが、本事業に関わるにあたり研究室メンバーで大切にしようとしているのは、ローカル 5G を地域の人々が理解しやすい形でワクワクできる仕組みにすることです。今回のイベントも、それを大切にしながら計画を進めました。
そして学生たちと何度もミーティングを重ねてまとまったのが、今回開催したオンラインキャンプでした。
ここでのポイントは3つあります。
①ローカル 5G の超高速で低遅延の通信技術を分かりやすく伝える
②ローカル 5G が災害時に活躍する技術であることを伝える
③ローカル 5G が子どもたちにとってワクワクする技術であることを伝える
特に子どもたちがワクワクできる工夫として採用したアイデアは、新潟市と上越市をオンラインで繋ぐことでした。それぞれの地域からそれぞれの会場に参加して、画面を通じてお互いの存在を感じる時間はオンライン特有の感覚でしたし、超高画質な画像を双方向で送受信できることで、離れているそれぞれの会場をとてもクリアに見ることができたのはローカル 5G ならではの環境でした。
また、日本は地震など震災の多い国でもあり、災害時に活躍する通信技術であることを伝えるために選んだテーマが防災教育でした。
ドローンで文字当てゲーム
この日は一日様々な取り組みで時間を過ごしたのですが、特に子どもたちが目を輝かせていた時間だったのがドローンを活用したゲームでした。上空に飛ばしたドローンから、地上にある A4 サイズの一枚一枚の紙に書かれた文字を読んで言葉にするゲームです。通常の通信環境では到底読むことのできない文字も、超高画質の画像を送ることができるローカル 5G ならクッキリと文字を認識できます。それは上越会場であろうが新潟会場であろうが一緒です。子どもたちは一枚一枚の紙に書かれた文字を読みながら、そこからどんな言葉になるのか夢中で答え合わせをしていました。
ひとしきり文字当てゲームをし終えて、さて次はこれが一体何のための時間だったのかを子どもたちに説明する時間です。
もし遭難した人を見つけるとしたら?
もし人がなかなか入り込めない場所で遭難者を探さなければならない状況だったとしたら?子どもたちはすぐに悟ってくれました。高画質な画像だからこそ地上の小さな文字を認識することができたこと。これが災害時に人を探し出すという場面に置き換えたらとても重要な技術であること。私たちが伝えたかっとことを、子どもたちにしっかりと受け止めてもらった瞬間でした。
ローカル 5G を活用した防災教育
内閣府の平成 26 年度防災白書からは、世界で起きているマグニチュード 6.0 以上の地震の 18.5%が日本で発生したというデータを見ることができます。如何に日本が災害大国であるかを、ここからも感じることができます。そして SDGs17 のゴールには 11 番目のゴールとして「住み続けられるまちづくりを」とあります。災害が発生した際には、いかに災害による被害を減らすかという視点が重要であるかということです。そのためには地域全体として、災害に対するレジリエンスを高める必要があります。そのために、私たちがまず一番に大切だと考えたのが教育です。自分の身を守る知識と感覚を身に着けるための防災教育です。今回は、日本赤十字社新潟県支部からもご協力を頂くことで充実した教育プログラムができました。
①アルファ米を使った防災キャンプ飯
②災害時に必要となる助け合うチカラを学ぶチームビルディング
盛り上がったのはチームビルディングの時間です。内容はドローイングチャレンジと竹ひごタワーでした。ドローイングチャレンジとは、三人が一チームになって、チカラを合わせて絵を描くというプログラムです。その絵を描くという手立てが難しいのですが、一人一人が人差し指でペットボトルを支え、三人で協力しながらペットボトルをコントロールします。ペットボトルの先にはペンが差し込んであるので、みんなで協力することができたなら思い通りの絵が描けるという算段です。言うのは簡単ですが、これがなかなか難しいのです。途中、ちょっと言い合いになったりするのもチームビルディングの過程ですが、丸を書いたり三角を書いたり、最後はなんとか猫に見える絵を描いていました。
もうひとつの竹ひごタワーは、文字通り竹ひごを使ってタワーにしていくプログラムです。どれだけチームで協力して高いタワーを作れるかがポイントです。これも見ていて楽しかったですし、全てが仲間と協力することの大切さだと知ったときの子どもたちの表情が印象的でした。
みんなで協力する大人の姿と学生たちの行為主体感
今回、実施した防災オンラインキャンプは成功で終えることができました。遊んで備えるという考え方があるのですが、まさに今回は、普段は遊ぶための技術が、いざという時には防災に転用できるということを地域のみなさんと一緒に認識する機会となりました。
そしてもうひとつ印象深かったのは、関わってもらったみなさんの姿です。学生中心の企画運営とはいえ、まだまだ未熟なところもあります。しかし回りの大人のみなさんからは上手く導かれましたし、何より心強かったと思います。学生たちは深く感謝していました。そして大変なはずのイベントを笑いあって楽しい時間に変える大人の姿は、きっと学生たちのこれからに大きく影響を与えたと思います。だからこそ学生たちも最後まで責任感を持って取り組んだと思います。
これら一連の時間は、学生たちの行為主体感を引き出して頂いた機会にもなっていました。ここでいう行為主体感とは“自分ごと”として捉えるということです。自分ごとして立ちまわる大学生の姿は、もしかしたら今回参加した子どもたちには大きな背中となって映ったかもしれません。学生は社会人の背中を見て学び、その大学生の背中を子どもたちが見て何かを感じる。こういった目には見えない連鎖が、地域をつくり次の時代をつくっていくのかもしれません。そうだと信じながら、また明日から学生たちと一緒に時間を過ごしていこうと思います。
* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
9月24日は、新潟大学の村山敏夫さんです。お楽しみに!