SDGs de はぐくむコラム

Meal Train と 恩送り 

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友達から「娘から、来年二人目が生まれるって連絡があったの」と嬉しいLINEが届いた。それは良かったねと一緒に喜んだ。
その頃、友達は少し離れたところに暮らす親の介護がスタートしようとしていた。来年二人目が生まれると連絡があって、少したった頃「娘が切迫流産で2週間絶対安静、場合によっては1か月に伸びる可能性もあると先生に言われたの。娘の所に泊まって、そこから仕事に通うけど、親の介護の関係もあるし、娘の住んでいる地域ではファミリーサポートセンターの支援がないから困っているのよ。」と連絡が入った。「夫さんのご両親はサポートできないの?」「住んでいる所が遠いし、働いていて、あちらのお孫さんの送迎があるから難しい」。今のばぁば、じぃじたちは、現役で働いている所に、親の介護が入ってくる。そこに、子どもの出産や子育てのサポートが加わると時間も体力もいくらあっても足りない。

パパももちろん頑張るが、上の子がいる場合、絶対安静のママのサポートと上の子の園の送迎、家事など、仕事をしながら1か月となると中々大変だ。自助、共助、公助と言うが、今回の場合、自助には早々に限界が見える。

では、共助はどうだろう。「共助とは、地域やコミュニティが互いに助け合うこと」というが、自助と共助の間のハードルは結構高い。昔のように、盆、暮れに親戚が集まるような付き合いがあって、折々にお互いの事情なども分かっていれば近くの親戚に頼むこともできるが、そういうご時世ではない。フルタイムで仕事をしているパパとママは、近所に同じくらいの子どもがいればパパ友、ママ友の関係を作り助け合うこともできるが、そうでなければご近所さんとは回覧板の受け渡しや挨拶くらいで、地域やコミュニティとのつながりは薄く、困ったからと言って気軽にお願いできる関係ではない。

公助は利用するまでに、色々と手続をしなければならない。緊急事態で目の前のことをこなしながら、手続する時間を捻出し手続きをしても、利用までに少し時間がかかる。今すぐどうにかして欲しいことへの対応は難しい。

そんなこんなで、今回は取り急ぎ、私がサポートに入ることにした。やってみて、サポートに入るポイントがあったので整理してみた。

1.家族ぐるみで一緒にご飯を食べたり、遊んだりする機会を持っておく。
私が昨年6月にオープンしたcaféに、友達は娘さんとお孫さんをつれてよく来てくれた。お孫さんが少し大きくなった頃、娘さんの夫も交えて、一緒にご飯を食べる機会があった。顔見知りになると、「お孫さんどうしてる?」とか様子を聞いたりするので、何となく様子を知ることができる。相手の事情が少しでも分かっていることで、共助の敷居が低くなる。

2.頼む内容は具体的に遠慮せず伝える。
友達からは、「来週はパパの仕事が忙しいので食事のサポートをお願いします。娘がつわりでさっぱりしたものしか食べられない。私とパパはどうにでもなるから、娘と孫のご飯をお願いしたい。」というように、いつ、どんなサポートがいるのかを具体的に言ってくれると、何をしたらいいのかが明確になる。

3.サポートする側は、分からない事、疑問に思うことは確認する。
とりあえず1週間食事のサポートに入ったが、「来週はどうしたらいいのか。連絡した方がいいのか?連絡を待った方がいいのか?」って迷っているより聞いてみる。「来週はどんな感じ?」「明日はパパがお休みだから大丈夫。明日、明後日私が会議で遅くなるからヘルプお願い」。「ママはどんなものが食べられる?」「お豆腐とか冷たいスープ」。グループLINEでのやりとりが聞きやすかった。ここでは、遠慮のないコミュニケーションが大事になってくる。

もちろん、友達であるばぁばと私の関係性もあるが、この3つは支援のポイントになると思う。友達の娘さんやお孫さんの為に、何かさせてもらえる、頼ってもらえることはとても嬉しかった。

これは、子ども食堂をやっていても思うが、困っている人がいたら何かしらサポートしたいと思っている人は沢山いる。でも、困っているかどうかは声を出さなければ伝わらない。困った時は、「助けて」って声をあげれば、誰かが必ず助けてくれる。

そんな最中に、西加奈子のエッセイ『くもをさがす』(河出書房新社)を読んだ。その中に、西加奈子が抗がん剤治療をして辛い時に、カナダではMeal Trainという、友人たちにご飯を届けてもらえるシステムがあり、カレンダーにメニューを書き込んで毎日順番に届けてくれる。ということが書いてあった。これって、とても良いシステムだと思った。

今回のような場合だけでなく、産後や突然の病気や介護、家族だけではままならないことは日常の中でおきる。私たちは毎日ご飯をたべるので、食事の支援をしてもらえるのはとても助かる。そして、Meal Trainのシステムは、何人かで分担して支援に入るので、支援する側の負担も少ない。これが日本社会にも広がったらいいのにと思った。

暫くすると、友達の娘もお腹の中の小さな命がハートビートをきざみ、落ち着いたと連絡があり、お礼が届いた。お礼は「ありがとう」の言葉と新しい命がこの世に出たときに会わせてもらえれば十分なのだが。

そういえば日本には「恩送り」と言う言葉がある。してくれた人にお返しする「恩返し」ではなく、自分のもらった恩を社会に帰していく事だ。恩を相手に返すのではないので、支援した人も相手には見返りを求めない。支援される人も素直にそれを受け取り、自分が支援できる時に必要な人に恩を送る。そんな風に恩を繋げていくことだ。「恩送り」が繋がっていったら、優しい社会になるのではないだろうか。

誰かに迷惑をかけないで暮らしていく事はできない。何かしら誰かのお世話になりながら生きているのだから、恩送りをして行けたらいいと思う。

  

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。8月10日は、新潟市在住 にいがた子育ちステイション理事長 /子育て支援ファシリテーターの立松有美さんです。お楽しみに!

http://立石勇生 SUNNY SIDE | BSNラジオ | 2024/08/10/土 10:00-11:00 https://radiko.jp/share/?sid=BSN&t=20240810100000

この記事のWRITER

立松 有美(新潟市在住 にいがた子育ちステイション理事長/子育て支援ファシリテーター)

立松 有美(新潟市在住 にいがた子育ちステイション理事長/子育て支援ファシリテーター)

1960年新潟市生まれ。子育てをしながら公民館や女性財団で男女共同参画やファシリテーションなどを学ぶ。2015年、「にいがた子育ちステイション」を設立。2016年、新潟初の子ども食堂「にいがた ふじみ子ども食堂」開設。子育て支援ファシリテーターとして公民館の家庭教育学級やNobody’s Perfect等の親支援プログラムのファシリテーターとして活動。アンガーマネジメントファシリテーター 産業カウンセラー NPO法人日本ファシリテーション協会新潟サロン世話人 ほか
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