10月28日、米Facebook社が会社名を「Meta」に変更すると発表しました。
世界中で普及したSNS「Facebook」の名前は変わりませんが、これを運営する会社名は「Facebook」から「Meta」に変わりました。このMetaというのは、最近話題になっているメタバースを意味していて、事業の軸を「メタバース」にうつしていくという報道がなされています。仮想空間上の会議室にアバターが集まって、会議をしている様子も頻繁に紹介されていました。現実の人間は、VRヘッドセットをつけて、仮想空間に没入するということなのでしょう。
私の理解では、メタバースというのは仮想空間のことで、その中で、よりリアルな経験をするためのツールが、VR・VRヘッドセットということになります。テレワークのように人と人が現実に集うことをやめても、現実に集まっているのと同じような状態をアバターが実現し、そこに人間活動の軸が移っていく。そういうイメージです。
私もテレワークのための「メタバース」の仕組みを10月に体験することができました。そのときに感じたことを少し書いてみます。越後湯沢で毎年開催している「情報セキュリティワークショップ in 越後湯沢」というイベントで、私は実行委員の代表をやっています。このイベント、去年今年と2年連続でオンラインで開催したのですが、2021年は展示会場(兼サブの講演会場)と懇親会場(パーティスペース)として、「メタバース」を使ったオンラインツールoViceを利用しました。oViceは、3次元の仮想空間ではなく、ブラウザで見る2次元のフロアを提供し、仮想的なオフィス空間(教室でもお店でもかまいません)で、人々が動き回って交流する空間を提供しています。テレワークが定着した都市部の企業では、社員間の交流を促すために使われるようになってきているとききます(新潟県の企業ではまだ普及しているとはいえないでしょう)
「情報セキュリティワークショップ in 越後湯沢」というイベントは本来、越後湯沢の会場に、首都圏などから情報セキュリティ関係者が集まり、講演・ワークショップ・企業展示などを行うものです。「コロナ前」は、湯沢町の会場に、500人程度の参加者が集まりました。新潟側から運営に関わる私達にとっては、湯沢町に集まってもらうというところにも大きな意味があるわけですが、2020年・2021年はその意味での目的は達成できませんでした。
オンラインで講演を聞いたり会話をしたりすることに加えて、オンライン上で人々が動き回れる状態を実現しよう。2年連続でリアル開催ができない喪失感はありつつも、2021年はoViceを利用してみることにしました。普段からoViceを活用している実行委員の皆さんの協力で、空間をデザインし、昼間は協賛企業の展示+講演映像の流れるサブ会場、夜はフロアデザインを変更して「大広間」でのパーティも実現しました。また実行委員の所属する企業で「エバンジェリスト」として活躍している方に、開催前のプレイベントと当日の休憩時間に「練習会」を実施してもらい、動き回り方、会話への加わり方、リアクションの仕方などを連休する取り組みも続けました。結果、多くの人たちが、単純に講演を聞くだけでなく、空間の中を動き回りながら活動する様子を見ることができました。
(以下は、開催時に大活躍してくださった、「エバンジェリスト」細野さんのブログ記事です)
テレワークで失った「偶然の出会い」を取り戻せ!仮想オフィス導入のススメ | セキュリティ対策のラック
「練習会」の効果は大きく、その結果多くの人たちがoViceで作られた会場を利用してくれました。二次元の仮想空間に滞在して交流するというのは、多くの人がすぐに体得できるものではなかったようですが、「練習」してすぐに多くの人が感覚をつかんでいたのは、参加者の多くがIT業界の人達だったからなのかもしれません。
Zoomなどのオンライン会議ツールは、常に「最前線」にいるかのような緊張感があるのですが、oViceの場合には遠くに離れていると話し声が小さく、近づいていくと大きく聞こえてくるようになりますので、距離の調整が可能で、それにより「遠巻き」にみながら徐々に近づいていくという、現実の展示会場やパーティ会場に似たような効果が実現されていました。oViceの中にも、集まって会議を行う機能はあり、最近Zoomとの提携も発表していて、会議ツールとしての側面はあります。
oVice、Zoom Video Communicationsとの業務提携を発表|oVice株式会社のプレスリリース
ただそれ以前に、「空間」である意味が大きいです。そこに「いる」とか「動き回る」という形で人々が回遊し、展示を見たり、そこで人と話したりできるようになっているので、「空間」の中で距離をコントロールできるメリットは大きいように感じました。
「遠巻き」に見るというのは、教室の反対側にいるクラスメイトをチラチラ見ているとか、見られるのを恥ずかしがる我が子を会場の端っこから見ているとか、現実社会の人間関係の機微が、いろいろ現れる瞬間だと思います。oViceのようなサービスはまだ、現実空間を100%再現したわけではないのですが、この距離感のコントロールというのは、現実空間を再現するという意味で、重要な要素なのかなと感じました。
こうしたツールは、距離を超えて人が集まることを可能にし、移動の制約を超えられるよう、進化していきます。それでもなお、人々は現地に行くことを望むと思います。情報セキュリティワークショップだけでなく、大学教員の場合には、学会の研究大会の場合にも、どこかに集まって議論を交わしてきました。子どもたちは、遠足とか修学旅行などによって、普段一緒にいる仲間たちと、移動して、そこで学ぶことになります。こうした人々の営みのうち、何が消え何が残るのか。移動する中で人々が得ているものの本質が、これから問われてくるのかもしれません。