SDGs de はぐくむコラム

「みんな」というくくりの中での子育て

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東京の桜が満開を迎え、春の暴風雨にその花びらが舞い散るある日、上野の国立西洋美術館を訪ねた。企画展〈ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?-国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ〉。入ってびっくり、20世紀前半までの「西洋美術」だけを収蔵、保存、展示している国立西洋美術館で「現代美術」の展示がされていた。

その展示の中で、『田中功起 いくつかの提案:美術館のインフラストラクチャー 美術館へのプロポーザル1:作品を展示する位置を車椅子/子ども目線にする』の作品を観た?読んだ? (作品は、テキストで描かれていた)

田中功起が、美術館の下見に行った時に、車椅子の人が展示品を下から見上げていたことに気づき、これはベビーカーに乗っている子どもとも同じ目線だと気づいた。田中自身の子育て経験から、ベビーカーを押している状況と車椅子の状況は、社会生活においての不自由さが似ているという。

美術館の展示は、人間工学からも計算されて「みんな」が見やすくなるようになっている。でもそれは、「みんな」から外れた、ベビーカーの子どもや車いすの人にとっては見づらい状況を作っているということだ。

そこで気づいた、どんなに便利な子育てグッズができても、公共の支援策が行われても、子育てのしづらさを親たちが感じるのは少子化=子どもが少ないという、「みんな」から外れたところにいるからではないかと。
子どもが沢山いた頃、町には子どもの姿や子どもの声があちこちにあり、「みんな」の中に子どももいた。でも少子化の現在では子どもは「みんな」から外れていて、「みんな」に迷惑をかけないように子育てをしている姿をみる。

例えば、平日昼間のスーパーマーケットは、年配者の割合が多い。ちらほら見える親子連れはとても微笑ましく映るが、子どもはいつもいい子でいるわけではない。カフェスペースで、あきた子どもが靴を脱ぎ、裸足で床に降り立った。その時、親は「ちょっと何してるの、裸足で歩かないで、少し考えれば分かるでしょう」と怒ってしまった。それを見た年配の方たちから「今の親ってあんな風に怒るんだね。すごい言い方するね。私たちが子育てしているときはそんな怒り方しなかったのに」という言葉が聞こえてきた。親は居たたまれなくなり、子どもを脇に抱えてその場を去っていった。
待ち合わせをしていたが相手が中々来ないので、飽きてきた子どもが騒いで迷惑をかけないようにと大好きなヨーグルトとおやつを食べさせていた。でも、眠くなりだんだん機嫌も悪くなったので、YouTubeを見せるが携帯を床に落とし、椅子の上に靴のまま立ってしまったので靴を脱がせた。そしたら今度は裸足のまま床に降りた。という物語がその前にあったのを知らないで、私たちは、その瞬間だけを切り取って何気なく言葉を発してしまうことがある。そしてそれが頑張った親たちを傷つけてしまう。

また、子ども連れの親に「女の子?何歳?」とたずねると、「女の子2歳です」と答える。「じゃあ次は男の子だね」とその人は何の悪気もなく言った。でも目の前にいる子育てに余裕のない親は、「今、この子で手いっぱいでそれどころじゃないんだけど、二人目を早く産めってこと、それも男子じゃなきゃダメなの」と思ってしまう。そして、親切に声をかけてくれた人に対して、そんな風に思う自分はダメだと自分を責める。
子育ての大変さは時代と共に変化し、今の子育てはここが大変なのと声をあげても少数派ゆえに届きづらいし、子育ては昔より良くなっていると思っているので共感しづらい。そして、子どもは成長するから一時我慢すればいいと思われがちだ。でも、子育ては「今」が大変なのだ。その大変さを「みんな」が一緒に考えて変えていけたらいいのにと思う。
「子育てしていると沢山の人が声をかけてくれるし、関わってくれる。困っているとすぐに手助けしてくれるから本当に嬉しい。子どもを産んで本当に良かった。」と親たちが思えたら、そんな空気を社会に作れたら、どんな子育て支援よりも子育て支援になるのではないだろうか。
今回の企画展の『田中功起 いくつかの提案:美術館のインフラストラクチャー 美術館へのプロポーザル2 乳幼児向けの託児室を設ける』を受け、国立西洋美術館は企画展開催期間中は、託児サービスを実施している。子育て中だけど美術館で静かに展示を観たい、だから託児室を設けてという作品の提案を受けて託児室を設けた。そんな風に子育てに寄り添うように社会が変化したら、子育てしやすくなるのではないだろうか。提案されたらやってみる。いいぞ!国立西洋美術館。

 

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。4月27日は、新潟市在住 にいがた子育ちステイション理事長 /子育て支援ファシリテーターの立松有美さんです。お楽しみに!
立石勇生 SUNNY SIDE | BSNラジオ | 2024/04/27/土 10:00-11:00 https://radiko.jp/share/?sid=BSN&t=20240427100000

この記事のWRITER

立松 有美(新潟市在住 にいがた子育ちステイション理事長/子育て支援ファシリテーター)

立松 有美(新潟市在住 にいがた子育ちステイション理事長/子育て支援ファシリテーター)

1960年新潟市生まれ。子育てをしながら公民館や女性財団で男女共同参画やファシリテーションなどを学ぶ。2015年、「にいがた子育ちステイション」を設立。2016年、新潟初の子ども食堂「にいがた ふじみ子ども食堂」開設。子育て支援ファシリテーターとして公民館の家庭教育学級やNobody’s Perfect等の親支援プログラムのファシリテーターとして活動。アンガーマネジメントファシリテーター 産業カウンセラー NPO法人日本ファシリテーション協会新潟サロン世話人 ほか
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